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今晩の寝床



「そろそろ行くか。」


「…どこに?」


「私の家だ。」


「は…初対面の女性を自分の家に連れ込むのはちょっとどうかと思うけど。いや、寝床が必要って言ったのは私だけどさ、常識的に考えてそれは無しでしょ。」


アレスは、ジト目でテトのことを見た。

フードの中にある彼の目とは合っていないはずなのに、テトの雰囲気がワタワタし出したような気がした。



「ご、、誤解だ。私の家には使用人がおり、来客者用の部屋が何室もある。宿屋のようなものだと思ってくれれば良い。それに、そろそろ夜になる。早く家に戻った方が良い。」


「え?この国って、夜は出歩けないほど危険なの?」


いきなりの危機感を感じる話に、部屋に連れ込まれる云々は一気にどうでも良くなった。



「ああ、アレスは外から来た人間だったな。この国は、魔物の生息地のど真ん中に位置している。常に結界を張っており安全面は保たれているが、ごく稀に夜紛れ込んでくるものがいると聞く。だから、この国の人間は、家屋に結果を張り、危険性の増す夜間は外に出ないのが一般的だ。」


「うわ、何それこわ…」


テトの言葉に、ここが異世界であることを思い知らされた。

魔物という未知の脅威と冷えてきた夜風に、アレスは身震いをし、両手で抱きしめるように自分の腕をさすった。



「とにかく一度戻ろう。今日は疲れているだろうから、明日またゆっくりと話をしよう。」


「ありがとう。」


アレスは、テトの言葉を信じ、彼と一緒に戻ることにした。

街の方面まで歩いて戻り、そこから馬車に乗って数分で彼の家に着いた。その頃にはもうすっかり日が沈み、夜になっていた。




「って、めちゃくちゃ豪邸じゃん…まるで映画の中にいるみたい…」


アレスの目の前には、西洋式の広々とした庭園と博物館のような立派な洋風の建物があった。これを『家』と呼ぶには些か豪奢すぎる。




「お帰りなさいませ。お部屋の用意は出来ております。」


「分かった。」


アレスが建物の外観を食い入るように眺めていると、使用人らしき人物とテトが会話をしている様子が目に入った。



え…これってもしかして…もしかしなくても、テトってものすごく地位のある人だったりする…?これってラッキーなのかな、それとも、何かに巻き込まれるフラグだったりする…?


…いや、今は余計なことは考えないでおこう。


それにしても、お昼ご飯ポテチしか食べてなかったからめちゃくちゃお腹空いた…コンビニ弁当くらい食べておけば良かった…いつ何が起こるか分からないから、今後は3食きっちり食べることにしよう。


今晩の夕飯のこと、テト忘れてたりしないよね?部屋に案内されてまた明日って感じだったらどうしよう…そんなの無理、お腹空きすぎて寝れない。


旅の恥はかき捨てって言うもんね。

一応、聞いておこ。



「夕飯のことなんだが、今日は疲れていると思うから部屋に運ばせよう。」


アレスが尋ねる前に、テトの方が先に気を回してくれた。



「さすがテト!!ありがとう!」


「あ、ああ。」


アレスの笑顔いっぱいの御礼に、動揺でテトの声が少し裏返っていた。

彼女の言い付けを守ってまだフードを被っているため、動揺している顔をアレスに見られることはなかった。




「ではまた明日の朝部屋に迎えに行く。何か困ったことがあれば、遠慮なくベルを鳴らしてくれ。」


「分かった。また明日ね。」


アレスは、部屋に用意してもらった豪華な食事をたらふく食べ、早々に眠りについた。




自分の部屋で使っていたものよりも、数倍寝心地の良い広々としたベッドで眠りについたアレスは、ぐっすりと眠ることができた。


翌朝、普段よりも遅い時間に目が覚めた。

カーテンから漏れ出た光の量から、かなり日が高いことが分かる。



「うわ!寝過ぎた!え、やば…今日請求書の締め日じゃん…こんな日に限って…とりあえず田中さんに連絡を…ってあれ?スマホがない…そして、ここどこ…???」


ベッドから飛び降りようとしたが、記憶の中にあるベッドよりもかなり広く、端まで辿り着けなかったことで、ようやく違和感に気づいた。



「えっと…?」


昨日の記憶を思い出すように、ゆっくりと部屋全体を見渡した。

天蓋のカーテン越しに、中世ヨーロッパ風のの豪華な家具や華やかな壁紙が目に入る。




「アレス様、お目覚めでしょうか?」


アレスが記憶の回復に努めていると、ドアの外から使用人と思われる女性の声がした。



「アレス?誰それ?この部屋に他の人がいるの…?」


アレス、アレス、アレス…どこかで聞いたような聞いたことのないような…何だっけ??


昨日ノリで名乗った何の思い入れも無い名前は、思い出すまで少々時間を要した。



あ…そうだった。



「はい!私です!!アレスです!!!」


ようやく思い出したアレスは、1人でまっすぐ挙手をして、元気に名乗りを上げた。






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