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【本編完結】異世界転移したので、まずはそれっぽい名前を名乗るところから始めようと思います。  作者: いか人参
本編

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報告と判断


「つい今しがた、王都上空に魔物の飛行を確認したとロワール公爵より報告が入りました。これまでに見たことのない種であり、街の上空を覆うほどの巨体であったそうです。なお、王都への被害は無く、魔物は東から西に向かって飛び去ったとのことでございます。」


至急の用件として、魔道隊大隊長のコピルトが慌ててタテロットの執務室にやってきた。国防の実務を担う魔導隊へ第一報が上がってきたためだ。


コピルトの額には汗が滲み、顔色がかなり悪い。ここまで走ってきたことと、過去に例のない巨大な魔物の出現に、平常心を保っていられなかった。




「他に目撃した者は?」


コピルトの報告に、さすがのタテロットも厳しい表情をしている。



「いないと思われます。新年休みで店は全て閉まっており、ロワール公爵からも周囲に人はいなかったと聞き及んでおります。」


タテロットが気にする要点を理解しているテトは、周囲の状況まで細かく報告を上げていた。おかげで淀み無く答えることが出来たコピルトは内心ホッとしていた。


コピルトの返答に、タテロットは一つ頷いた。



「東から来たとなると…恐らくだが、唯一存続が確認されていた近隣国のモンストルム国が沈んだのだろう。彼の国では、我が王国よりも魔法に長けた者が多かったと聞く。そこの魔力を食い潰して次を探していたと仮定すると、ここ最近の魔物の活発化も辻褄が合うな。」


タテロットの話に、コピルトは息を呑んだ。顔色は青から白に変わり、今にも倒れそうなほど血の気がない。

部屋の隅に控えていたフランタンもかなり険しい表情をしている。



「あの規模で襲撃をされれば、王国は…」


「耐えられないだろう。」


コピルトが口に出来なかった言葉をタテロットが引き継ぎ、躊躇することなく言葉を紡いだ。


それは、諦めでも不甲斐なさでも嘆きでも怒りでも無く、ただの事実として言っている声音であった。

誰よりもこの事態を想定して生きてきたタテロットは、今更絶望することはしない。為政者という立場で、国民の命が一つでも多く助かる選択をする、頭の中にあるのはただそれだけであった。



その後、タテロットはコピルトに対し、国境周辺の結界に弱体化が見られる箇所が無いか至急調査するように指示をした。


指示を受けた彼は、各部隊へ伝達するため、また急ぎ足で執務室を後にした。





「年明けのパーティーは中止にするよう手配を進めて参ります。」


よく出来る側近は、主からの指示を受ける前に、さも当然のように自身のやるべきことをタテロットに言ってきた。だが、主君にとってはそれは当たり前ではなかった。



「なぜだ?」


「は……」


なぜもなにも…王国に明確な危機が迫っている今、国の慶事なんてやっている場合ではないだろう。最大級の災害に備え、国民に避難準備をさせ、現後方支援部隊を魔導隊予備隊に格上げさせて、尚且つ、後方支援は新たに若者を募って再編成しなければならない。しかし、それだと国民からの不満爆発は免れないため、一定の基準を満たした者には、陞爵あるいは叙爵の処置を取り、優遇することで不満を上手く逃す必要がある。


……今思案しただけでもこれだけの成すべきことがあるというのに、この目の前にいる王太子殿下は一体何を考えているのか…想像は容易いが、今回ばかりは己の仮説が間違いであってほしいと強く願ってしまう。



「これは毎年行っている大切な国の行事だ。こんな直前になって中止にしてしまえば、それこそ何事だと貴族の間で不穏な噂が真しやかにされてしまうだろう。なに、明日明後日に魔物の大群に攻め入られるわけでもあるまい。こういった時にこそ、我々は日常を意識して過ごすべきなのだ。」


タテロットは、キリッとした表情で肘掛けに腕を置き、大きな窓の外に目を向けながら尤もらしいことをツラツラと述べた。



「で、本音は?」


「せっかくのテトラスの愛しい人に会える機会、潰すわけにはいかないだろう。」


自身が想定した通りの主君の本音に、フランタンは思い切りため息を吐いた。盛大に呆れている顔を隠そうともしない。

臣下にそんな態度を取られても、タテロットは何も気にせず涼しい顔をしている。



「いずれは、僕の義妹になる方だ。それなら前もって挨拶をしておくべきだろう。僕は立場上、そう易々と外に出るわけにはいかない。公式行事で会うのが一番手っ取り早いのだよ。」


タテロットは相変わらず澄ました顔で、堂々とそれらしい言い訳を並べてきた。

一歩も譲る気のないタテロットに、フランタンはもう色々と諦めた。



「タテロット様のお気持ちは十分に理解致しました。開催は続行しますが、やるべきことは全てやって頂きますからね。今よりも私的な時間が減ることをご覚悟くださいませ。」


「…分かってるよ。」


タテロットは心底嫌そうな顔をした。

今でさえ、私的な時間は睡眠時間しかない。食事時間でさえも、大臣や魔導隊幹部との打ち合わせや会議の時間に充てている。つまり、唯一の私的時間である睡眠時間を減らせということを意味している。




「まずは、至急各地域の避難計画を策定するよう、西と東に連絡致します。王都は私が担当致します。」


嫌そうにしているタテロットの方など見向きもせず、フランタンは西と東の大臣に送る書類を用意し始めた。二人に各地域の避難計画を策定するように指示を出すためだ。フランタンは、国民の避難経路及び避難先の確保が最優先事項だと考えていた。



だが、必死に国民のためを想ってペンを走らせるフランタンのことを、タテロットは冷めた目で見ていた。


「そんなことをして何になる。逃げ場などどこにあるというのか。」


自分だけに聞こえるように小さく吐き出した言葉は、必死に書類をさくせいするフランタンの耳には届かなかった。




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