タテロットの趣味
新年初日、本来であれば公休日となる今日、タテロットは相変わらず朝から書類仕事に追われていた。昨日よりはだいぶ片付いたと思われたが、それでもまだ結構な量の書類が束になって机の上に置いてある。
しかし、昨晩の様子とはまるで異なり、タテロットは鼻歌混じりに次々と軽快に仕事を片付けていく。珍しく、不気味なくらいに機嫌が良い。
主君の機嫌の良さとは反対に、同じ部屋で雑務をこなすフランタンの表情は浮かなかった。
「タテロット様は、随分と機嫌が良さそうですね。」
この空気に耐えられなくなったフランタンは、仕事の手を止め、タテロットに向かって堂々と嫌味を言ってのけた。
普段なら職務中の雑談になど乗らないタテロットであったが、今日はすぐさまペンを置き、嬉しそうに顔を上げた。
「今頃アイツが嫌そうな顔をしていると想像するだけで…くくくっ…笑いが止まらないな。」
「本当に貴方という人は…ロワール公爵に嫌がらせをして楽しむ奇人はタテロット様だけですよ。悪趣味です。」
「あんなに言ったのに勿体ぶって会わせてくれないテトラスが悪い。この僕にまで隠そうとするから、こうやって公の場に引き摺り出される羽目になるのさ。結局、自分で自分の首を絞めているだけなのにね。くくくっ。」
「だからと言って、王太子の権限をご友人相手に行使するのは如何なものかと思いますが。」
「フランタン、君は『権力も実力の内』って言葉を知らないのかい?権力とは使うために存在するのだよ。何事も、宝の持ち腐れは良くない。」
「・・・」
悪びれる様子が一切無いタテロットに、フランタンは呆れて言葉が出なかった。
余計なことを聞いてしまったせいで、この空気に耐えられなくなったフランタンは、紅茶を淹れ直しに行くふりをして、部屋の外に逃げた。
しばらく戻って来なかった。
***
「これ、新年を祝う王家主催のパーティーの招待状じゃん。これのどこがテトに対する嫌がらせなの?むしろ、パーティーのお誘いなんて嬉しくなる類のものだと思うんだけど。」
アレスが全く理解出来ないと、しかめ面でテトのことを見た。
陽が落ちてきたため、二人は暖炉のある客間に移動していた。
ゆったりとしたL字のソファーに、ローテーブルがセットで置かれている。暖炉に合わせ、ダークブラウンを基調とした重厚感のある雰囲気であった。
暖炉の中で炎が揺らめき、視覚的にも暖かさを与えてくれる。
ローテーブルの上には、ティーセットとグシャグシャになった招待状が置かれていた。二人はソファーの辺にそれぞれ座っている。
「これには、パートナーの同伴必須と書いてあり…つまり、アレスを連れて来るように指示をされている。これは、断ることが出来ないのだ…」
テトは、苦しそうな声で言った。
先ほどから、視線は膝の上で組んだ手に落としたままだ。アレスの顔を見ることはなく、気落ちしているような、不安そうな、そんな負のオーラが漂っている。
「え!?私も王宮のパーティーに行けるの!!?こんな身分も苗字も何もなくて出自も不確かなのに…?え…王子様ってめちゃくちゃ良い人じゃん…」
アレスは、『王宮×パーティー』の響きに、異世界ファンタジーを強く感じ、瞳を輝かせている。テーブルに軽く手をつき、身を乗り出してきた。こうなると誰にも止められない。
アレスは、一旦落ち着いてまずは詳しい話を聞こうと、ソファーに座り直してティーカップに手を伸ばした。
「アレスを、人目に晒したくない…」
相変わらずアレスの方を一切見ようとしないテトは、苦しそうな表情のまま、なんとか言葉を発した。
「は…………………」
思わぬタイミングで独占欲を見せつけてきたテトに、アレスは固まった。
ティーカップの取手に手をかけ、口に付けようとしたが、だいぶ手前から傾けてしまいスカートの上に紅茶をぶちまけてしまった。
テトは慌てて、水魔法と風魔法で冷やしながら濡れた箇所を素早く洗濯し、最後は微弱の火魔法でしっかりと乾かしていた。
場所が場所だけに、片手で常に風魔法を使い、スカートが捲り上がらないように細心の注意を払いながらという完璧な紳士の対応であった。
「って、子どもかよ…………」
アレスにはパタパタと自分のために動くテトなど目に入っていなかった。
空のカップを手前に傾けたまま、かなりの間を置いた後、小さな声でツッコミを入れていた。




