ダミとフィオナの内緒話
日付が変わって皆で新年の挨拶を交わすと、楽しかった宴はお開きとなった。
深夜だから泊まっていけばいいのにとアレスは言ったが、三人はテトに気を遣い、自分たちの家に帰ることにした。
その代わり、テトが防御魔法を施した最強の公爵家の馬車に乗って帰ることになった三人。
レジトリス家の方が遠かったが、最後女性を一人にさせるわけにはいかないと、先にジュリアのことを家に送り届け、その後、フィオナとダミの二人は自分たちの邸へと向かうことにした。
ジュリアを無事に家に送り届けた後、二人だけになった車内は静かであった。
ドアの隙間から流れ込む冷えた外気と、耳鳴りがしそうなほど静かな夜に、すっかり酔いが覚めたダミ。窓から、静まり返る街の景色を眺めている。
「あの様子だと、アレスさんにはまだ伝えてないのね…」
「王家入りのこと?」
「ええ…」
二人は視線を交わすことなく、互いに窓の外を見つめたまま話した。フィオナの呟くような声は、馬車の車輪の音にかき消されてしまいそうであった。
「あれじゃ言えないだろうな…」
「でも、期限はもう今年でしょう?あっという間にその時が来てしまう。」
「これは前から決まっていたことだ。それはアイツが一番よく分かっているはず。」
ダミは、いつになく真剣な眼差しで強く言い切った。
彼は一番近くで、テトの意思と覚悟を、そして、目を背けずに自身の運命に抗う姿を見てきた。今もなお、抗い続ける友に、ダミは彼の選択を最大限尊重しようと心に決めていたのだ。
テトが国外逃亡を図るのであれば、自分もそれに加担する覚悟であった。アレスがテトの前に現れてからは、むしろそうしてほしいと強く思っている。
「それは、アレスさんと知り合う前のことでしょ?あんなに優しい顔のテトラス、貴方見たことある?あんなに幸せそうな顔をして…なのに…」
アレスのことを見つめる優しい顔のテトラスを思い出し、フィオナは感情が昂って声が震えた。外野の自分が泣くわけにはいかないと必死に唇を噛み締めるが、目に涙が溜まっていく。
ダミはフィオナの状況を察し、彼女の方を見ずに片手で雑にハンカチを差し出した。
「王家入りしたからと言って、その命がすぐに絶えるわけじゃない。それに、あの王太子のことだ、無駄に命をくれてやるわけがない。アイツはテトラス以上に性格がひねくれてるからな。」
「そう、よね…」
「それよりも何よりも、まずはアイツがきちんとプロポーズをしないと。アレス嬢の了承をもらわないと何も始まらないからな。」
「…そうだったわ。あんなに仲良く、しかも一緒に住んでるからって勘違いしそうになるけど、あの二人、まだ赤の他人なのよね。」
目に溜まった涙は引っ込み、今度は心配そうな顔をし始めた。
「間に合うかしら…」
「間に合わないに一票。」
独り言のつもりだったフィオナに、ダミはすぐに言葉を返してきた。この点においては、テトのことをフォローする気は一切無いらしい。
「ちょっと…縁起でもないこと言わないでよ。」
「フィオナだってそう思ってたクセに。」
「…姉さんって呼びなさい。」
何も言い返すことの出来なかったフィオナは、とりあえず揚げ足を取った。そんな彼女に、ダミは苦笑していた。
二人がテトのことを好き勝手言っている間に、馬車はレジトリス家に到着していた。だが、盛り上がる車内の声に、気を遣った御者は馬車を止めたまま、しばらく様子を伺っていたのだった。




