晩餐会
今日の夕飯はいつものダイニングルームではなく、庭園を見渡せる広いサロンに用意されていた。
長方形のテーブルに金の装飾の入った美しいテーブルランナーが敷かれ、その上にいつもよりも豪華な料理が並んでいる。テーブルの中央には花まで飾られ、ちょっとした晩餐会のような雰囲気になっている。
テトから客人を招く話を聞いた使用人頭がこの日のために本気を出したのだ。
邸に誰かを人を招待するなど初めてのことであり、使用人一同並々ならぬ想いを込めてこの場をセッティングしたのである。
「すごっ!!!いつものご飯だってものすごく豪華なのに、それ以上とは…恐るべし公爵家の財力…」
テーブルの上に並ぶ豪華絢爛の料理に、最初こそ目を輝かせたものの、その感情は段々と畏怖に変わって来た。
「さすがにここまでじゃないけど、でもうちでもそれなりにご馳走だった気がするな。」
「それなりにって、レジトリス家のお坊ちゃんが何を仰いますか…うちみたいは下位貴族とは雲泥の差でしょうに…」
ダミの発言に、ジュリアは耳を塞いで聞こえないふりをした。言葉は丁寧だが、ダミヘの扱いは結構雑である。
そんな不思議な関係の二人をアレスは不思議に感じていた。
「そういえば、ジュリアさんはどうしてダミのことを坊ちゃん呼びしてるんですか…?はっ、もしかして…」
顔を青くしたアレスは、慌てて両手で口を塞いだ。
「ちょっと待てアレス嬢…絶対に変なこと考えてるだろ…」
「趣味で坊ちゃん呼びを強要…!!?」
「いや違うから…てか、それならお兄チャンって呼ばれた…いって!!!!」
変なことを言い出すダミに、フィオナがテーブルの下で思い切り彼の足を踏ん付けてきた。テトは呆れてため息を吐いている。
たわいもないやり取りをしている間に、一人一人の前に装飾の美しい銀のゴブレットが置かれ、赤ワインが注がれていく。
テトとの食事の時に酒が出たことはないため、アレスはこの国ではてっきり飲まないものだと思っていた。
お酒が好きなアレスは、久しぶりの赤ワインの芳醇な香りに胸をときめかせていた。
客から順に注がれていき、アレスの前にようやく給仕係がやってきた。
「え…………」
注がれていく液体を見て、アレスは固まった。それは、周囲に湧き立つ香りと全くの別物であったからだ。
「なんで私だけオレンジジュースなの……」
「「え???」」
泣きそうなアレスの声に、フィオナとジュリアが驚きの声を発した。
テトは、いつもの気まずそうな顔でそっぽを向いている。確信犯であった。
「ぶははははははははっ!!!!テトラス、お前それはさすがに過保護過ぎだろっ!!!あははははははははっ!!!」
ダミだけは大爆笑であった。
涙を流し、行儀悪くテーブルの上を叩きながら笑い続けている。
この国では、15から酒を飲むことが出来る。
アレスは見た目も立派な大人であり、既に働きにも出ている。一年の一番最後の日、この日は神職以外のものは皆酒を楽しむ。だから、成人であるにも関わらず、ここで一人だけオレンジジュースであることの方が不自然なのだ。
「私のワイン…」
ぐすんと泣きそうな顔で、ゴブレットの中に入っているオレンジジュースを見つめるアレス。
さすがにこれは可哀想だと、フィオナとジュリアもテトに非難めいた目を向けた。
「…少し外に出てくる。」
ひとこと言い残して、テトは庭へ続く大きなガラス扉から外に出て行ってしまった。
「「「逃げたな…」」」
残された全員の声が重なった。




