異世界の年末
年の瀬が近づき、国民のほとんどが長期休暇に入る。この国では、年末から2週間ほど休むのが慣習だ。この間、多くの商店が店を閉じ、仕事を忘れて恋人や家族との時間を過ごすのだ。
ジュリアの店も長期休暇に入り、街にある多くの店が閉まる中、出掛ける先の無いアレスは、ロワール邸で引きこもりの日々を過ごしていた。
そして、明日新年を迎える今日、テトは王宮へと出向いていた。
公爵の身分を持つ彼は、年の終わりに王族へ挨拶をしに行かなければならないのだが、アレスとの時間を最優先した結果、ついに年内最終日の今日となってしまった。
そして先刻、アレスに笑顔で見送られ、王宮からやってきた使者に連れ去られて行ったのだ。
唯一の遊び相手であるテトもいなくなってしまい、本格的に暇になったアレスは、自室のベッドで横になり、クッキーを摘みながら雑誌を眺めていた。
「はっ!!!!!!!」
が、寝転んでいたアレスは、突如惰性で眺めていた雑誌から勢い良く顔を上げ、驚いたような声を出した。そして、その勢いのまま、ベッドから飛び降りた。
私はなんて勿体無い時間の使い方をしてるんだ!!!せっかくの異世界なのに、部屋でゴロゴロって、これじゃ一人暮らしをしていた時の年末と一緒じゃんか…
ええと、……せっかくだがら、なにか異世界っぽい年末の過ごし方を……うん、とりあえず外に行こう。このまま家の中にいては腐るだけだ。
街のお店は閉まってるけど、屋台とかやってそうじゃない?そうだ、まだ見ぬ異世界の屋台に行こう。
よく分からない焼いた肉とか頬張って樽でビール飲んで、カントリー系の音楽が流れたりして…うわなにそれ、異世界っぽい!!!
一人で行くのはちょっと寂しいけど…でもこの石があれば、気付いたテトが飛んできてくれるよね。そしたら二人で楽しめばいっか。
よし!そうと決まればさっそく着替えだっ!!
少し前の襲撃事件のことなどすっかりと頭から抜け落ち、異世界感を求めて身支度を整え始めたアレス。
時刻はもう既に夕方だ。
手早く身支度を整えたアレスがドアの方に向かおうとすると、部屋の外から使用人に声を掛けられた。
外に出ようとしていることがバレたのかと一瞬身構えたが、全く別の要件であった。
「アレス様、お客様がお見えになっております。」
「おきゃくさま??私に??」
自分のことを尋ねてくる人物にまるで見当が付かないアレス。
恐らく変な人では無いのだろうと思いつつも、無意識に緑色の石を握りしめながら、その「お客様」に会うため、下の階に降りて行った。
「アレスさん、今日は遊びに来たわよ!」
「アレス嬢!久しぶりー」
「アレスさん、こんにちは。」
「へ………??」
客としてロワール邸にやってきたのは、フィオナにダミ、そしてジュリアだった。
馴染みのある顔ぶれに、アレスは驚きで一瞬固まった。
「お前達……早かったな…」
そして、三人の後ろに、何故か息を切らしているテトが現れた。どうやら得意の風魔法を使って王宮からここまで飛ばしてきたらしい。
「テトラスが戻ってくる前に、アレス嬢と仲良くやろうと思って来たのに…魔法使うとかズルじゃんか。アレス嬢もそう思うだろ?」
「お前がいるから急いで来たんだが。」
顔を合わせるなり言い合いを始めるテトとダミ。仲がいいんだか悪いんだが分からない二人に、フィオナとジュリアは苦笑を漏らした。
そんな中、一人状況についていけないアレス。
「え…どういうこと??テトは皆が来ること知ってたの?もしかして、テトが呼んでくれたの?」
「ああ。アレスは賑やかな方が好きかと思ってな。」
遠い場所からやってきたアレスに、少しでもこの国を身近に感じてもらいたくて少し前からこの日のことを画策していたのだ。
本当はサプライズ的に三人を呼ぶつもりだったのだが、ダミのイタズラによって順番が前後してしまった。
「そういえば、アレス嬢はどうして外に行く格好してんの?今からどこかに出掛けるのか??」
何の気なしに、脈絡もなく尋ねて来たダミ。気軽な口調であったが、言われた側はたまったものではない。
コートを羽織りマフラーを巻き、ファーのついた帽子まで被っているアレス。これは、言い逃れの出来ない状況であった。
何かそれらしい言い訳をしようと必死に頭を動かすが、隣に立つテトからの視線が痛くてそれどころではない。
「アレス…」
「まぁ!アレスさん、そのコートとてもお似合いよ。こんなに可愛い姿で出迎えてくれて嬉しいわ。ふふ、テトラス様が羨ましいわね。ダミアン坊ちゃんもそう思うでしょう?」
「…そ、そうだな。」
テトの言葉を遮り、ダミのことを笑顔の圧で牽制したジュリア。
アレスは救世主のおかげで、テトからの追及を受けずに済んだ。ジュリアの素晴らしい助太刀に感動したアレスは、彼女の背に向かって手を合わせて拝み倒していた。




