後始末
テトが歴代最強の魔法使いと言われているが、タテロットもそれなりに高い魔力量を保持し、類い稀なる魔法のセンスを持つ。それは王家直系が持つ独自のもので、時代が時代であれば、最強の名を手にしていたであろう逸材だ。
そんなタテロットは、テトの魔法が展開される予兆をすぐさま感知し、2種類の魔力を瞬時に練り上げた。
一つは自身の防御壁として使い、もうひとつは迫り来るであろうテトの魔力に直接ぶつけにいった。
強く輝く緑の光と青い光がぶつかり、謁見の間は真っ白な光に包まれた。常人であれば目を潰されるほどの強い光である。
ようやく視界が開けると、そこには先ほどまでとなんら変わりのない二人の姿があった。互いの距離に数ミリの変化もなく、最初に顔を合わせた時と同じ立ち位置で相対していた。
だが、タテロットは、額にうっすらと汗が滲んでいた。なんとか自身の魔力で相殺出来たものの、一歩間違えれば王宮ごと吹き飛んでいたと思うと冷や汗が止まらない。
「随分とご挨拶だな。僕ごと、この国を潰すつもりか。」
会話でテトの気を逸らしつつ、風魔法でバレないように額の汗を乾かした。
平常心を取り戻すように、髪をかきあげて小さく息をついた。
「お前、あの大臣達がアレスを狙っていると知って見過ごしていたな。それが、一国の王太子のやる所業か!彼女がどれほどの怖い思いをしたと思っている!」
テトの激昂に彼の魔力が連動し、空間が揺らいだ。だが、為政者の仮面を付けたタテロットは、それに怯むことはなかった。
「そうだな。反乱因子を捕まえるために泳がせたことは認めよう。おかげで二人とも罪に処すことが出来るからな。ただこれが出来たのは、お前が彼女を守っていると思っていたからこそだ。お前のことだ、最上級の結界魔法を付与していたのであろう?」
「それはそうだが…それでも、襲われるという恐怖は未遂であっても心に残るものだ。お前は、国のためならそれを良しとするのか?」
「お前が彼女の隣にいてあげれば良かったんじゃないか?お前だって、あいつらに自分の弱みを狙われることくらい予想していたろう?それが分からぬほど阿呆でもあるまい。なのに、どうして彼女から目を離した?どうして敵に隙を見せた?お前にその責はないというのか?」
テトのことを責め立てるように、語気を強めるタテロット。先程とは真逆に、今度は彼の魔力が辺りを覆っていく。
「それは…アレスに出禁にされてしまったから、それで仕方なく…」
いきなりの弱気なテトの発言に、充満していたタテロットの魔力は一気に霧散した。テトもすっかりと気力を失い、一切魔力を外に出していない。
「は?それどういうこと?」
すっかり気の抜けてしまったタテロットは、あっさりと為政者の面を捨て、長年の友人を心配する顔に早変わりした。
「アレスが働いている店に、容姿を変えて毎日通っていたんだが、あっけなくバレてしまって…それで店に入ることを禁じられてしまったのだ…」
歴代最強と言われるこの男が、女の一言を真に受けてそれを遵守するなど、先ほどまでのテトの顔を知るからこそ、信じられなかった。
好いた相手にものの見事に振り回されるテトに、タテロットはおかしくて堪らなくなってしまった。
もうテトのことを責める気力はない。
「お前は…変なところで真面目なんだから。そんなの無視すればよかったのに。彼女の言うことを守り抜いて、王太子に楯突くとは本当に良い度胸をしているよ…そんなに彼女がいいのか。」
「私には彼女しかいない。アレスじゃなきゃ駄目なんだ。」
テトの真っ直ぐな想いに、タテロットは手でしっしっと追い払う仕草をした。その顔は完全に呆れている。
「はいはい、ご馳走様。そういうのもういいから。あ、でも君の彼女に迷惑を掛けたことは事実だから、僕から詫びを送ろう。」
タテロットは、呆れた顔をしまい込み、テトに向かってにっこりと胡散臭い微笑み向けた。
「お前の詫びなど絶対にいらん。どうせ自分の利益に繋がるような碌でもないことであろう。」
取りつく島もなく、速攻で断ったテト。相変わらずタテロットに対して当たりが厳しい。
「ひどい言い方だなぁ。僕だって、人の心はある。申し訳ないなって気持ちを具現化しようと思っただけなのにさ。」
タテロットは、ちぇっとわざとらしく口を尖らせた。
「詫びはいらん。話は以上だ。此度のこと、二度目はないからな。よく覚えておけ。」
王太子殿下に言うべきではない捨て台詞を声高に言うと、テトはタテロットからの返答も待たずに部屋を後にした。
「いらないって言われると、余計にやりたくなっちゃうんだよねぇ。」
部屋には取り残されたタテロットは、性懲りも無く、そんなことを1人呟いていた。




