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【本編完結】異世界転移したので、まずはそれっぽい名前を名乗るところから始めようと思います。  作者: いか人参
本編

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大臣達の密会


王都からほど近い場所に位置する、シュトナー侯爵家が所有する別邸の地下室に、初老の男性二人の姿があった。


当主しか知らないこの部屋は、採光用の窓はなく、魔法ランプの光のみでほのかに照らされている。

使用頻度の低さから至る所に埃が溜まり、椅子とテーブルしかない簡素な部屋にも関わらず、二人は微笑を浮かべながら楽しげに会話をしていた。




「タテロット王太子殿下が実権を握るようになってから、この国は変わってしまった。アンダーソン大臣もそう思わないかね?」


シュトナーは、この部屋に忍ばせておいた10年もののブランデーの瓶と小さなグラスを二つ取り出し、並々になるまで注いだ。その一つをアンダーソンの前へと差し出す。



「全くもってその通りですな。特にあのロワール公爵に対して甘過ぎる…魔法使いの価値はこの国のためになってこそだというのに、それを忘れて権利ばかり主張しおって…」


アンダーソンは、差し出されたグラスに入っていたブランデーを一気に煽った。勢いよくグラスをテーブルの上に置くと、コツンッと高い音が響いた。



「ここだけの話なんだが…」


誰もいない部屋であるはずなのに、シュトナーは距離を詰め、わざとらしく声を落とした。



「最近、あのロワール公爵に想い人が出来たとか…

それで一層王宮入りを拒んでいるという噂が出回っておってな。」


「なんと、それはけしからん話ですな。女にうつつを抜かすなど…魔法使いの役目を忘れておりますぞ。役目を果たさないあやつに価値などあるものか!」


アンダーソンは語気を強めた。先ほどから勧められるまま酒を煽り、顔が真っ赤だ。正常な判断が出来なくなっていた。



「おっしゃる通りですな。人なんてあっけなく死にゆくもの。そんな刹那的な存在に判断を誤って国を滅ぼされては困りますな。公爵も近いうちにそれを実感することになりましょう。」


「なんとそれは愉快な話だ。啖呵を切った若造の泣き顔を拝めると思うと、今から笑いが止まりませんな!がはははははっ!!」


地下室に下品な笑い声が響いた。だが、この声が外に漏れ出ることは無かった。




***



「いらっしゃいませ!学生さんですか?恋人への贈答品をお求めですか?ふふ、青春ですね。」


「いや、その…はい。」


にっこりと営業スマイルを浮かべたアレス。威勢のいい店員に、制服姿の若い男性は若干引き気味であった。



「こちらなんていかがです?女性に人気の花をモチーフにしたネックレスです。こちらの雪の結晶のペンダントと重ね付けすることも出来て、これからの季節にぴったりと思います。それに…」


アレスはペンダントからチャームを外してみせた。手のひらには雪の結晶だけが乗っている。



「こうしてチェーンなしで、キーホルダーとして使うことも出来るんですよ。これだったら男性でもカバンにつけられますし、さり気なくお揃いアピールが出来ちゃうんです。」


「お揃いアピール…」


客が食いついた。

アレスが果物売りで感じた通り、この国の男性は、紳士でありながらも独占欲を満たしたいという非常に難儀な生き物らしい。その矛盾をアレスは上手いこと突いてくる。



「ええ。二つ同時にプレゼントするのも悪くないですけど、今は冬ですから、春めいて来た時に花のネックレスを渡すというのもいいと思いますよ。女性は押しに弱いですからね!」


アレスの言葉に、男性は並べられた花のネックレスと雪の結晶のペンダントを手に取り、重ねたり離したりして見比べている。

それを数十秒続けた後、小さく頷いた。



まいどありーーーっ!!!


購入を確信したアレスは、心の中で叫んだ。



「この二つを貰おう。」


「お買い上げありがとうございます!今お包みしますね。」


アレスはカウンターに品を運んだ。プレゼント用の包装など出来るわけがなく、ジュリアに丸投げするためだ。



「こちら、まだ距離を詰めきれていない初々しい恋人がそのお相手に贈るプレゼントです!包装お願いします!」


にこやかな笑顔でいらん情報まで伝えて来たアレスに、ジュリアは堪らず苦笑を漏らした。



「それにしてもすごいわね。初日からこんなにお客様の心を掴むなんて…お客様との会話も少し聞こえていたけど、アクセサリーにも詳しいし、提案も的確だし、なにかこういった経験があるのかしら?」


ジュリアは、彼女の人心掌握のコツを少しでも教えてもらおうと、カウンターから身を乗り出して尋ねてきた。自分とは真逆の接客スタイルに興味津々だ。



「ええと、それは…」


コツなどないアレスは答えようがなく、目を泳がせた。



え、コツもなにも…こんなそれっぽい服を着させられて、絶対に知り合いがいない街なら、なりきってノリノリで店員出来ちゃうよね。その結果、口からデマカセ言ってしまったっていう…


だって、ショップ店員って一度は憧れるじゃん?自分のおすすめで客がモノを買ってくれるなんて、自分のセンスが認められたようで嬉しくなるしさ。


それっぽい話術ってのも一度はやってみたかったんだよね。普段なら自信ないし恥ずかしくてできないけど、ここだとそんな気持ちにならないんだよね。なんでも出来る気になっちゃう。これはもう異世界マジックとしか言いようがない…




「この素敵な制服のおかげです!」


返答に困ったアレスは、制服のせいにした。何か迷ったらとりあえず相手を褒めておけ!それがアレスの信条であった。





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