初出勤
翌日から早速ジュリアの店で働くことになったアレス。
本当は週5日働きたかったのだが、それは働き過ぎだ、身体を壊してしまうと過保護のテトに必死に止められ、『慣れるまでは』という条件付きで、ひとまず週3日働くことでなんとか合意を得た。
記念すべき出勤初日、アレスは外行き用のワンピースに身を包み、テトが用意してくれた公爵家の馬車に乗り込んだ。
当初、アレスは乗り合い馬車を利用して店まで通勤するつもりだったのだが、あれは危険だとやたらと騒ぐテトに止められてしまった。
貴族も使うことのある公共機関のどこが危険だというのか、さっぱり分からなかったアレス。
それもそのはず、テトが心配していたのは、彼女の身に迫る危機ではなく、アレスがもし他の男に口説かれてしまったら…の一点のみだったからだ。
「本当に1人で行くのか…??」
意気揚々と馬車に乗り込んだアレスのことを、捨てられた仔犬のような瞳で見つめるテト。
馬車でたった数分の場所に行くだけだというのに、彼は今生の別のように言ってくる。
「それ、昨日からもう10回以上答えていると思うんだけど…1人で行くって。働きに行くのに保護者同伴で行くやつなんていないでしょ…」
窓から顔を出したアレスは、うんざりした顔で言い返した。反抗期真っ最中の娘のような態度であった。
「アレスはまだこの街に慣れていないから、誰か付いていないと…」
「この発信機で私の居場所分かるんでしょう?なら安心じゃん。」
「それはそうだが…」
「それに、私は最強の魔法使いの加護を受けているんだよ。テトは何があっても、私のことを助けに来てくれるでしょ?」
「当たり前だ。」
「なら安心だね。そろそろ出ないと遅刻しちゃうから!行ってきます!御者さん出してくださーい!」
「…気を付けて」
最後はアレスに押し切られる形で別れを告げた。
テトは走り出した馬車を見送り、見えなくなった後もその場に居続け、心配した使用人に声を掛けられるまで、名残惜しくその場に突っ立っていたのだった。
僅かな緊張と、胸いっぱいのワクワク感で店のドアをゆっくりと開けたアレス。
カランカランとドアについた鈴が良い音を出した。開店前の静かな店内に鈴の音が良く響く。
中に入るとすぐ、笑顔のジュリアが出迎えてくれた。
「アレスさん、今日から宜しくね。早速なのだけど、これがうちの制服だから裏で着替えてもらえるかしら?本当はエプロンだけなのだけど、アレスさんが着るって思ったらつい色々と増やしてしまったのよ。ふふふ。」
そう言って彼女が見せてきたのは、袖口が広がってフリルになっている白のシャツ素材のワンピースに、真紅の袖なしの生地を重ね、胸元で編み込んで一体型にした見た目のものであった。
「こ、、これは…」
RPGとか冒険もので、一番最初に出てくる街にある店の売り子さん達が来ている服だーーーー!!!酒場のシーンでもよく見かけるやつ!!樽の見た目をしたおっきなジャッキにビール注いで6つくらい運んだら、めちゃ絵になりそう…
これはもう完全にコスプレっ!!!
しかも、今は髪も眉も明るい色だから、この姿なら着こなせる気がする!!!
こんな可愛い服着させてもらって働けて、ヤラシイことなしにお金を貰えるだなんて、、、なんという素敵な職場っ!!!
「もしかして…気に入らなかったかしら…」
制服を見つめたまま固まり言葉を発しないアレスに、ジュリアはやり過ぎたかしら…と不安になって声を掛けてきた。
「大好物です…っ!!!!」
平民でも使わない言い回しに、ジュリアは目を丸くして数秒固まった後、ぷっと可愛らしく吹き出した。
「ダミアン坊ちゃんから、アレスさんは面白い方とお聞きしていたのだけど、ふふふ、想像以上だわ。早く大好物の制服に着替えてらっしゃないな。」
「はいっ!」
ジュリアの声かけに、アレスは元気よく返事を返し、渡された制服を持ってタタタタッと足早に裏に引っ込んでいった。
可愛らしい雰囲気なのにコミカルな言動をするアレスを見て、ジュリアは可笑しそうにまた小さく吹き出していた。




