重役達の会議②
大臣達とテトのやり合いに場の雰囲気(と言っても、コピルト大隊長だけだが)が凍り付く中、タテロットはそんな空気を無視して、敢えてこのタイミングで、王弟カエサルに話を振った。
「カエサル王弟殿下、この事態にどのように対処すべきとお考えで?」
タテロットの問いに、皆の視線が一斉にカエサルに集まった。
最近では滅多に公の場に現れなくなったカエサル。どんな発言が飛び出すのかと、皆興味深い目で見ている。
「あ、ああ…わ、わわたし、、私はああ…あああああああああああああ…」
先程まで無関心に席についていたと思われていたカエサルは、タテロットに話しかけられた途端、急に目を見開き、その瞳が左右に揺れ出した。
ガタガタと震える口からは聞き取りにくく、意味のない言葉しか出てこない。
その異様な光景に、タテロットとテトを除く三人は、驚きを隠せなかった。悍ましいものでも見るかのように震えと冷や汗が止まらない。
これが魔力を失ったものの末路であった。
生命力とほぼ同義である魔力は、その減少が著しくなると自我や理性を失い、自分が何者かも分からなくなる。人として生活を送ることはまず無理だ。
そして、最終的には気が狂ったまま命をも失う。
「王弟殿下は、ご気分が優れないらしい。殿下をお運びしろ。」
タテロットの指示で、警備の者が数名現れ、カエサルを丁重に部屋から連れ出して行った。
魔力が尽きかけている者を目にした大臣二人は、震えたまま驚愕の表情をしている。コピルト大隊長に至っては、顔が真っ青で今にも泡を吹き出しそうなほどであった。
「仕方がないな。今日はここまでにしよう。コピルト大隊長、報告書を王宮に提出しておくように。」
「か、畏まりました。」
コピルトはタテロットに向かって恭しく一礼をした。
こうして重鎮達を集めた会議はあっけなく終了となった。
「お前、王弟殿下をダシに使ったな?」
会議終了後、ついでとばかりに神殿に向かったテトは、同じようにその場にいたタテロットに呆れた口調で話しかけた。
「使えるものは使わないと。皆、魔法魔法ってすぐあやかろうとするけれど、どれだけの命を削って成し得ていることなのか、真に理解すべきなんだよ。」
「だからって、あんな状態の殿下を無理に引き摺り出さなくとも…」
タテロットの発言に、テトは若干引き気味で答えた。躊躇しないところが王族だなと口には出さずに揶揄した。
「テトラス、お前は怖くないのか。」
タテロットが脈絡もなく、いきなり尋ねてきた。
為政者ぶるでもなく、おどけるでもなく、それは素に近く、そして真摯な声音だった。
「お前は」という言葉には、暗に自分は怖いという意味が込められている。彼にしては珍しく弱自身の良さを曝け出した発言であった。
らしくないタテロットに、テトは一瞬だけ動揺したが、努めていつもの口調で返した。
「以前はどうでも良かったが、今は違う。」
力強く言い切ったテトの脳裏には、アレスの笑顔が浮かんでいた。思い浮かべた彼女の笑顔に、どうしても口元が緩んでしまう。
「そうか。」
寂しそうな声音なのに、顔は嬉しそうに微笑んでいる。それは、彼の複雑な心の内を如実に現していた。
己の思考に沈むようにタテロットはしばらく黙り込んだ。彼にしては珍しい沈黙であった。
何か落ち込んでいるのかとテトが焦り出した頃、タテロットはぱっと顔を上げ、いつものにっこりとした良い笑顔を見せた。
「ねぇ」
「…なんだ」
良い顔で微笑むタテロットに、テトは嫌な予感しかしない。何を言い出すのかと思わず身構えてしまう。
「僕も、テトラスの愛し人に会いたいな。」
「絶対にイヤだ。」
即答であった。しかも、ものすごく嫌そうな顔をして。
「少しだけでいいからさ。」
「無理だ。」
「指一本触れないって約束するから。」
「そんなのは当たり前だ。むしろ彼女に何をするつもりだ…」
「王宮に連れてくるのが不安なら、僕が公爵邸に行こうか?」
「そういう問題ではない。それに、お前は王宮から出るな。」
「あ、もしかして彼女が僕に惚れる心配をしてる?ほら、僕は顔が良いし?」
「…煩い。」
いつもの調子に戻ったタテロット。
ここぞとばかりにテトのことをとことん揶揄い、最後は愉快そうに声を上げて笑っていた。それは快活とした表情であった。




