帰り道
アレスは帰る前に報酬の果物を貰おうと、トトの方を見ると、彼女の顔が青ざめていることに漸く気付いた。
「あれ…?トト姉さんどうしたの??具合でも悪い??」
「あんたの心配をしているんだよ!そんなふうに公爵様に気安くして大丈夫なのかい?貴族に睨まれたら、私らなんてすぐに潰されちまうんだ!」
目玉が飛び出しそうなほど驚愕した表情をしている。平民にとって貴族は雲の上の存在、そのてっぺんに君臨する公爵家が相手とあらば、対面しただけで腰を抜かすほどだ。
「え…テト、私のこと潰すの?っても、家も身分もないから潰しがいは無いと思うけど。」
「なぜそうなる…自分の愛する者にそのような仕打ちをするわけがないだろう。」
テトのストレートな言葉に、少しだけ耳を赤くしてしまったアレス。そんな彼女の変化に、テトが気づくことはなかった。代わりに、トトが目を丸くしている。
「え…は…アレスちゃん…いや、アレス様?公爵様とそんなご関係で…?」
「トト姉さん!とりあえず、今日の報酬ちょうだい。あそこにある果物もらってもいい?」
「ああ、もちろんだよ。全部持っていってくれても構わないさ。たくさん売ってくれたからね。」
気軽なアレスの口調に、つい同じような口調で返してしまったトト。慌てて口を塞いだが、アレスもテトも気にしている素振りを見せなかったため、安堵の息をついた。
「代金は支払う。」
「これは私が働いた分の報酬なんだから、お金は払わなくていいんだって!!」
「いや、しかし…」
「良いから行くよ!トト姉さん、今日はどうもありがとう。また遊びに来るね!」
「あ、あぁ。」
手を振りながら颯爽と去っていったアレス。トトは、最後まで彼女の立ち位置が分からなかった。
アレスのことは気に入ったが、後ろについているテトのことが怖くて堪らず、ちょっとしばらくは来ないでほしいなんて心の中で思っていた。
テトとアレスは、帰り道を歩いていた。テトは、果物がたくさん詰め込まれた袋を持っている。
想定よりも多く貰えた報酬に、隣を歩くアレスの足取りは軽い。
「そういえば、どうして私の居場所が分かったの?」
「ああ、それは…」
テトは、アレスの胸元に光る緑色の石をチラリと見て言い淀んだ。
「え…もしかして、これ発信機なの…??」
「違う!そういった目的にも使えないことはないが…それはアレスのことを守るためのものであって…今回は、邸からいなくなったアレスのことが心配で…」
「やっぱり発信機じゃん。」
「う…」
アレスの指摘に、テトは黙ることしか出来なかった。
彼女の方を見ていられず、気まずそうに足元に視線を落とす。いつもは姿勢のいい背中が前傾になっており、叱られた子どもみたいな姿だった。
「でも、これのおかげで迎えに来てもらえたから良かった。ありがとう。」
テトに向かって優しく微笑んだ。
1時間以上も歩いた道のりを、また一人で歩いて帰ることに不安を抱いていたアレス。テトが迎えに来てくれたことが素直に嬉しかった。
「…なら、良かった。」
感謝されると思っていなかったテトは、アレスのお礼に、一瞬目を見開いた。その後、テトも耳を赤くしながらホッと息をついていた。
「よし、そろそろいいか。」
「え?」
二人の間に流れる温かい雰囲気を無視して、テトは行動に出た。
アレスの肩と足元に手を当てたと思ったら、そのまま横抱きにしてしまった。
「は!?ちょっと!!!」
「邸までかなり距離がある。風魔法で一気に帰ろう。大丈夫、ここまで来れば人もいないし、誰かに見られることは無いだろう。」
「え!?いや、そういう…え、ちょっと待って!!!!」
テトは彼女の訴えを無視して、風魔法と自身の魔力を用いた防御魔法を使い、アレスを向かい風から守りつつ、風魔法で二人の身体を数センチ浮き上がらせた。
そして、軽く身を屈めると、自分の背中を押し出すように、背後から風魔法を当てた。その瞬間、滑るように結構なスピードで前進し始めた。
「ぎゃあああああああああああああ!!!」
かなりの低空飛行だが、逆にそれが怖かった。緑色の盾のおかげで、アレスは微風すら感じないはずだが、物凄いスピードで進んでいく景色に悲鳴が止まらない。
「飛行体験はどうだった?」
テトは、珍しくニヤリと笑い、自室の床にへたり込むアレスに向かって、意地悪そうな顔をしている。移動のためとはいえ、アレスのことを抱きかかえられたことが嬉しくて堪らず、上機嫌になっているのだ。
邸の玄関に降り立ったのだが、アレスが目を回していたため、横抱きのまま自室に運び入れられた。
「無理無理無理…やっぱり、人間は地に足をつけて歩くべきだって…無理して空を飛ぼうなんて奇人の考えることだわ…」
アレスはしばらくの間、座ったまま目を回していた。




