売り子のアレス
「こんにちは!お兄さん、気合いの入った格好をしてるねぇ。さては、これからデート?」
「えっ?」
「これ手土産に渡したら、お相手喜ぶよ!特別にフォークを二つ付けてあげるから、仲良く分け合いっ子出来るね!」
「えっと…?」
「もしかして…食べさせ合いっ子も出来るんじゃない?ほら、これは王都では珍しい品種で見た目も可愛いもん。あーんってしたらきっと口を開いてもらえると思うよ!」
「…ひとつ、貰おう。」
「まいどありっー!!」
お嬢様姿のアレスが道路に飛び出すだけで簡単に馬車が止まってくれた。
彼女は、止まった馬車に近づいて、窓から相手の人となりを見た上で、言葉巧みに果物の押し売りを行っていた。
報酬の果物を手に入れるため、押し売りにも力が入る。
次々と馬車を止めては、有る事無い事、口からデマカセを並べて果物の売り付けを行っていった。
なにこれ楽しいーーーー!!!
さすがは、貴族様!
値段も聞かずに、言い値で次々と買って行くわ。学生時代、居酒屋でバイトしてた時の適当会話スキルがこんなところで役に立つとは…この際、出来るだけお金を巻き上げて…じゃなかった、沢山果物を買って頂いて、少しでも将来のための貯金にしよう。やっぱり現金は大事だよねー!!
「アレスちゃん?もうすぐ夕刻だけど、帰らなくて大丈夫なのかい?」
果物を運んでは馬車を止めて売り付けて、また屋台に戻って…と永遠に繰り返すアレスに、見かねた店主が心配になり、屋台に果物を取りに戻ってきたタイミングで、声を掛けてきた。
「うそっ!もうそんな時間!?街に行きたかったけど今日は無理か…」
『夜に紛れ込んでくるものがいる』
ふと、テトの言葉を思い出した。
「ねぇ、おねえさん。この辺りも夜になると魔物が出るの?」
「魔物だって?国境近くでは出るって噂だけど、この辺じゃ出たことないね。それと、私のことは、トトと呼んでおくれ。おねえさんは気恥ずかしくて仕方ない。」
「ありがとう!トト姉さん!最後にもう1台だけ売ってきたら終わりにする!」
アレスは、トトに手を振るとまた道路の真ん中に飛び出して行った。
止まった馬車の窓に近寄り、コンコンと軽く窓を叩いた。中にいた若い男は、いきなり顔を出したアレスに驚きつつも、ドアを開けてくれた。
「こんにちは!果物はいかが?」
「果物?ああ、売り子か。僕は果物よりも君の方がいいな。君はいくらで買える?」
出たっ!!!鉄板の親父ギャグっ!!!!
品物じゃなくてお姉さんの方を買っちゃおうって悪ノリ。この世界でも、こういうノリの人いるんだ。よく知らないけど、なんかこの人と仲良くなれそう。
「金貨10枚でどうだ?君に家族がいるなら、もう少し色を付けよう。」
は…………もしかしてガチ勢………???この国、人身売買アリなの…………????
目が本気なのが怖いんですけど。
これ、ひょっとして……ひょっとしなくても、マズイ状況……??馬車のドア開いてるし、放り込まれたら最後、だよね………???
「私のアレスに何の用だ。」
「え…??」
聞き覚えのある安心する声に、アレスが驚いて振り向くと、そこにはテトが立っていた。
「ひっ………こ、ここ、公爵様!!わたくしは何も…その、売り子から果物を買おうとしていただけで………」
いきなりのテトの登場に、男の顔が真っ青になった。王太子の次に身分の高いテトに睨まれては、貴族位を剥奪されかねない。
「ありがとう、お兄さん。じゃあ、あの屋台に並んでる果物ぜんぶ宜しくね。」
「わ、わかった。分かったから、これで見逃してくれ…!!」
金貨を2枚渡すと、勢いよくドアを閉め、馬車を走らせた。
「まいどありーーーっ!!!」
去り行く馬車に向かって、アレスは大きな声で礼を言い、軽く頭を下げた。その瞬間、なぜか、馬車のスピードが一段と上がったように見えた。
「で、アレス。ここで何をしていたんだ。」
迫力のあるテトの問いに、アレスの目が泳ぐ。
「ええと…その、路銀稼ぎ…?」
思わず疑問形で答えてしまった。なんとなく怖くて、テトの目を見ることが出来ない。
「…悪かった。」
「えっ??」
「まさか外に出るとは思わず…説明を怠った。そのネックレス、裏にロワール公爵家の紋章が刻まれている。それを見せれば大抵のものは手に入れられる。代金は後からロワール家に請求が来るが、それは私が支払うから問題ない。金は余ってるから、いくら使ってくれても構わん。」
「は…テトは公爵家だったんだね。スッキリした。にしても、すごい代物…これは首から外せなくて当然かも。」
アレスが一人納得したように、首元の石に触れていると、焦ったトトが駆け寄ってきた。
「アレスちゃん!こ、こ、公爵様とお知り合いなのかい…?」
先ほどの男と同様、顔が真っ青だ。テトの方を見ることは出来ず、アレスの方だけを見て不安そうに尋ねてきた。
「すご…テトって、みんなに恐れられてるんだね。さすがは、公爵様。」
「…慣れている。」
アレスの揶揄に、テトは気まずそうに目を逸らして肯定した。それを見たアレスは、面白そうに笑いをこぼしている。
物怖じせず、タメ口でテトと話すアレスに、トトは心臓が止まる寸前であった。動悸が激しく、立っているので精一杯だった。




