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鎖のついた石


「ナチュラルにこの部屋に戻って来てしまった…」


ベッドの隣に置かれた猫足のソファーに腰掛け、アレスは一人呟いた。



アレスは、テトと邸に戻った後、一緒に夕飯を摂り、お茶を飲んでひと息つき、昨日泊らせてもらった部屋へと舞い戻って来ていた。


御礼として一泊だけ世話になるつもりが、当たり前のように、テトにこの部屋へと送り届けられてしまったのだ。




このままで良いのかな…


なんか思ってた以上にテトはすごい人っぽかったし、そんな人におんぶに抱っこって…いきなり家の都合で結婚が決まったとか言って放り出されたら、私終わるな…いや、テトのことだから、お情けで家には置いてくれそうだけど、いくらこの邸が広いとはいえ、彼の奥さんになる人は、こんな身元不明の女と同居なんてしたくないわな…


やっぱり、安定した衣食住を与えてもらっているうちに自立する術を身に付けないと。


まずは…何よりも大事な、お金。


ちゃんとした就職先はダミからの連絡を待つとして、明日もすることないし、その間だけでもこの邸で雇ってもらえたりしないかな…あのお仕着せ一度で良いから着てみたいんだよね。ザ・コスプレって感じでめちゃめちゃ可愛かったぁ。


もしくは街に出て短期バイトとか?この国にそんな制度あるのな…そもそも私不法入国者だった…え、働いているのバレたら捕まる?国外追放??魔物の生息地に捨て置かれたら秒で死ぬわ!事故で死ぬより痛そうで嫌なんだけど…!!!




コンコンコンッ


「アレス、いるか?」


アレスが答えの出ない思考に深く沈み込んでいると、テトがドアの外から声をかけて来た。



「どうしたの?」


外套を羽織ったテトを見たアレスは、不思議そうな顔で彼のことを出迎えた。

普段と様子の変わらないアレスに、テトは内心ホッとしていた。馬車の中で見たアレスの表情が気になって脳裏に残っていたのだ。



「ちょっとな、明日のことで話があって。」


言いにくそうにしているテトに、アレスはとりあえずソファーを勧めた。

使用人が用意してくれた銀の水差しからグラスに水を注ぎ、二つ分用意してテーブルに並べ、テトの隣に腰を下ろした。



「ありがとう。…明日なんだが、国から緊急招集がかかってしまって、終日外出となる。一緒にいてやれなくてすまない。」


この世の終わりのような顔をして、深々と頭を下げたテト。相変わらず美しい姿勢であった。



「へ?仕事でしょ?そんなの謝ることじゃないよ。それより、緊急招集って…何かあったの?今から行くの?」


「結界が弱まっていた地域があったんだが、その付近で魔物の反応があったらしい。だから私が直接現地に行って結界を張り直すことになったんだ。この後邸を出る。」


「…そうなんだ。うん、気を付けて。私は明日もここで過ごさせてもらうね。」


『大丈夫?』と言いたかったのをアレスは飲み込んだ。

彼女は、心配する顔よりも笑顔で彼のことを送り出そうと決めた。



テトは、アレスの言葉に微笑んで頷くと、懐から緑色に輝く石を取り出した。


石にはチェーンが付いており、ネックレスのような風貌をしていた。だが、ネックレスと呼ぶにはデザイン性に欠け、『鎖のついた石』といった方がしっくりくる見た目であった。



「これを身につけて欲しい。急いで拵えたから少々不恰好な見た目だが…」


手のひらに乗せられた、キラキラと光り輝く石を、アレスは興味深そうに様々な角度から眺めた。



「綺麗…テトの瞳の色と同じだ。」


「いや、、そんな変な意味は無く、魔力を込める都合上どうしても自分の瞳と同色になってしまって、だからこれはその…」


テトは焦ったようにどうでも良い言い訳を並べ始めた。自分の色を身に付けてもらえることに喜んでいることがバレてしまわないよう、必死であった。



「え?これ魔力入ってるの?すご…マジックアイテムじゃん…。ありがとう。なんかご利益ありそうだから常に身につけとくね。」


アレスはにっこり微笑むとさっそく自分の首に付けようと、後ろに手を回した。



「あ、ああ。」


『常に身につける』これを勝手に意味深に解釈したテトは、目を逸らして、耳を赤くしていた。



「ん…これ、不格好どころかくっつけるパーツがないんだけど。どうやって付けるの?くっ…腕が攣りそうなんだけど…」


アレスは手を後ろに回したまま、パーツの取り付け先を探して四苦八苦している。早くこのマジックアイテムを付けたくて仕方ないらしい。



「ああ、それは…」


テトは立ち上がって、ソファー越しにアレスの後ろに回ると、彼女の手から鎖を取り、片手で鎖を持ってもう片方の手をその上にかざした。


彼の瞳が緑色の輝きを放って、鎖同士がくっ付いた。というよりも、元から一本であったかのような馴染み具合であった。



「これで完成だ。」


「おお!これがマジックアイテム!すごいね!」


ファンタジーな雰囲気に小躍りして喜んでいるアレスは、自分では絶対に外せないネックレスを付けられたことに気付いていなかった。


テトは、ご丁寧に接合部分を強化して、ちょっとやそっとじゃ取れないようにする工夫まで施していた。



「それでは行ってくる。」


「うん、行ってらっしゃい!」


テトは、アレスの首元で自分の色が輝く様を見て嬉しそうに微笑むと、部屋を出て行った。





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