表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/86

励まし


想定外にダミとのお茶時間を過ごしてしまった二人は、もう夕方に近づいていたため、今日は邸に戻ることにした。


ちなみに、アレスの仕事の件は、ダミが別れ際、また改めて手紙で連絡をすると言っていた。




「ねぇ、魔法って何ができるの?」


この国の人達もほとんど魔法を使えないと知り、アレスは魔法の希少性を再認識し、俄然興味を持った。

帰りの馬車の中、向かいに座るテトに、キラキラとした純粋な眼差しを向けた。



「魔法と言っても万能なものではない。」


テトは、自身の手のひらを閉じたり開いたりしながら話を続けた。



「土、水、火、風、この4大元素に干渉することが出来る。」


「な、なんというファンタジー感…!!」


オタクと名乗れるほど詳しくはないが、異世界ものをひと通り読んできたアレスは、その言葉の響きに感激していた。



『魔法』という未知なるものを扱う自分に対して、そういえば、子どもたちにはこんなふうに輝く目で見られていたな…



アレスの素直な反応に、テトは、自分の中にあった良い思い出が心の奥底から蘇ってきた。



「だから水を増やせたの?髪の色は…毛髪に含まれる水分をいじったのかな…?魔法を使うってどんな感じなんだろう…やっぱり疲れる?無限に使えるわけじゃないよね、きっと。毎日特訓とかしてるの?というか、テトってなんの仕事してるの?え…ちゃんと働いる…?」


魔法への憧れが止まらないアレスは、テトへの質問も止まらなかった。


物凄く質問攻めにされているが、嫌な気はしなかった。自分自身に目を向けてくれていることが分かるため、嬉しさが優っていたのだ。ただし、最後の質問を除いて。



「概ねアレスの言った通り…だが、私だってちゃんと働いている。」


「!!!」


『私だってちゃんと働いている』

テトが言ったそのひとことが、アレスの頭の中でコダマした。


「…ごめんなさい。タダ飯食らいは私の方でした…」



うわ…働いていないのは私の方だった…


衣食住、なんならお小遣いすら付いてくる完璧な生活なのに、働いていないって事実に対する焦燥感が半端ないわ。

あんなに仕事を辞めたかったのに、いざ仕事がない状況になるとこんなにも落ち着かないもんなんだ。


いきなりだったからな…

自発的に退職してたらちょっとは違ったかな?

私がいなくても業務は回ってるかな…


皆、元気にしてるかな…

って、まだ2日くらいしか経ってないけど。


…変なの。大して仲良くなかったくせにさ。




「…アレス?大丈夫か?」


「え?」


テトの心配そうな声で現実に連れ戻されたアレス。不安げに揺れる瞳と目が合った。

だが、彼女は、なぜそんなに心配そうな顔を向けてくるのか分からなかった。



「泣きそうな顔をしている。」


「あ…」


その言葉でようやく、アレスは自分が目に涙を溜めていることに気付いた。

基本的にどんなことでも前向きに捉え、小さなことは気にしないアレスは、自分の痛みにひどく鈍感なのだ。



「…ごめん。ちょっと感傷的になってただけ。うん、もう大丈夫。」


自分に言い聞かせるように言うと、心配しなくていいからねと、テトに微笑んだ。



「今回は見逃すが、またそんな顔をしていたら、その要因を取り除くまで付いて回るからな。」


「ははっ。なにその脅しは。そんな励ましってある?」


「だからと言って私の前では隠すなよ。無理はしなくていい。」


「…ありがと。」


軽く笑い飛ばそうとしたアレスの虚勢など、テトにはお見通しであった。


どこまでも優しい彼の言葉に、アレスはじんと胸を熱くしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ