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テトの友人


テトに声を掛けて来たのは、漆黒の短めの髪に、茶色の猫のような目をした青年だった。ただでさえ大きいその瞳を、さらに大きく見開いて、テトとアレスのことを見ている。



「ねぇ、テトの知り合い?」


アレスは、テトの袖をちょんちょんと軽く引っ張り、相手の失礼にならないよう、小声で尋ねた。つもりだったが、生粋の令嬢達と比べると、普通に大きく聞き取りやすい声であった。


アレスの言葉に、目の前の青年がいち早く反応した。信じられないとばかりに、頭を抱えて左右に振っている。演者ぶった大袈裟なリアクションであった。



「え…て、テトラスのことを愛称呼びしているだと…?20年来の友人である、この俺ですら認められていないのに…。おい、テトラス、可及的速やかにこの状況を説明しろ。」


「…相変わらず、面倒な奴だな。」


「おい!本音がダダ漏れてるぞ。もう少し俺にも気を遣え。」


「はぁ…」


「だからそうやって、嫌そうな態度を全面に出すな。俺だって傷付くんだからな!」


二人は仲の良さそうな掛け合いを繰り広げた。テトは本気で嫌そうな顔をしていたが、友人と思われるその青年は、嬉々とした雰囲気だった。




「は?私、最初の自己紹介でテト呼びを指名されたんだけど?本名は言いたくないからとかなんとか。」


長年の関係性があるからこそ成り立っているこの掛け合いに、アレスもぬるっと参戦してきた。彼女は、遠慮というものを知らないらしい。



「は。お前、こんな可愛い女の子に、本名隠して愛称を名乗るとか、どんだけせこい手を使ってんだよ…」


「う…」


そう、テトは、初めて会ったあの日、アレスに愛称呼びをしてもらいたい一心でどうでもいい大嘘をついたのだった。

そんな自分の手の内を明かされたテトは、何も言い返せなかった。



「えっと…私に愛称呼びをされたくて、本名を隠したってこと…?うわ、ダサっ!!聞いているこっちが恥ずかしいわ…」


「ははははっ!!この子、めちゃくちゃ面白いじゃん。そうなんだよ、テトラスは見た目が良いくせにダサい奴なんだよ。はははっ。」



二人の攻撃に、テトは何も言えず、ただただ小さくなっていた。


涙を流すほど笑い転げた青年は、ようやく落ち着き、指で涙を拭っている。頃合いを見て、アレスがテトに声を掛けた。



「そんな変な嘘をつかなくても、普通に呼ばれたい名前を言えば良かったのに。それくらい誰も何も言わないって。これからは、変な気を使わないでいいから。」


ちょっと言い過ぎてしまった謝罪の意味も込めて、テトに向かってにっこりと微笑んだ。



「アレス…」


彼女の優しい言葉に、テトは泣きそうな声を出した。こんなしょうもない嘘をついてしまう自分のことすら認めてくれるアレスに、心がじんわりと温かくなった。



「良い雰囲気のところ悪いんだけど、そろそろ俺のこと紹介してもらっていい?」


ここにも遠慮を知らない奴がいた。

テトに向かってヒラヒラと手を振り、自分の存在をアピールしてきた。




「…こいつは、ダミアン・レジトリス。ダミ、こちらはアレスだ。」


テトは、仕方なく簡単に他己紹介をした。


すかさず、ダミと呼ばれた青年が、おいっ情報少なすぎだろ!と激しいツッコミを入れてきた。もう勝手にやれと、テトは追い払うような仕草を見せた。



「…コホンッ 改めまして、ダミアン・レジトリスと申します。我がレジトリス家はこの国一番のミラー商会を傘下におき、数多くの品を扱っております。アレス様のお役に立てることもあるかと存じます。どうぞ、以後お見知り置きを。」


片腕を胸の前に当て、恭しく一礼をした。先ほどまでの雑な振る舞いとは真逆の、目を惹きつける優美な所作であった。


落ち着いた声音、美しい言葉遣い、優雅な所作、顔を上げた後に見せた柔らかい微笑み、それらを間近で見せつけられ、たいていの貴族令嬢なら頬を赤く染め、コロっといってしまうだろう。




「…商会?何かお店やってる人なんですか?私、そこで働けたりしません?」


「「は…………」」


ダミの仕草に、顔を赤らめることも動揺することもなく、突拍子もないことを言い放ったアレス。

困惑する二つの声が見事に重なった。





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