エイプリルフール
「あの。エイプリルフールって、知ってますか?」
「ちょっと、ごめんなさい」
「すみません。エイプリルフール、ご存じですよね?」
「何ですか、それ?」
「ウソをついてもいい日、今日ですよね? まだ、ありますよね」
「あるわけないでしょ?」
「ウソ、つきたいんです」
「はあ。習わなかった? ウソついたらダメって」
「はい。すみませんでした」
ウソがつきたかった。ウソを信じてもらえたときの、顔が好きだから。
なのに、ダメだった。友達に、怒鳴られた。ウソなんかつくなと、強く言われた。
ごもっともな意見だ。みんなが正しすぎて、何も言えない。
エイプリルフール。今年、初めて参加しようと思った。だけど、知らないうちに、廃ってたみたいだ。
駅から出てくる人は、みんなエイプリルフールを知らなかった。
駅前の、ぼやけた感じの床だけ見ていた。四角くて、赤と茶色の暗い感じの床。そこしか、すがれなかった。
SNSで発信して、聞くという手段もあった。でも、エイプリルフールがなくなったことが事実なら、それは最大の恥さらしだ。
僕は、まあまあの有名人。控えめの僕が、自分でそう言える。それくらいの、場所にいる。
もう、何人もに聞いてしまっている。だから、全国に広がることが、もしかしたら、あるかもしれない。
明日のネットニュースに、紛れるかもだ。
♪プルルルル
ビクッとなった。突然の、着信音だったから。スマホの画面には、非通知設定の文字。
恐る恐る画面をタッチし、耳に近づけた。
「エイプリルフールあるよ!」
「えっ?」
友達の声だった。あの、怒鳴ってきた友達だった。
「あれは、ウソだよ。今日は、ウソをついてもいい日だよ」
ドッキリの、協力者について考えた。でも、仕組みは分からなかった。
なんか、笑ってしまった。声を出さずに笑いながら、僕はこう言った。
「嫌いだよ。あんたなんか、大嫌いだよ」