とある幼なじみ同士のとある日常~幼なじみが何を飲んでいるのか当ててみようゲーム~
シリーズ化するかもしれないし、しないかもしれない日常系のお話です。
「なあ、お前何飲んでんだ?」
階段の踊り場で隣に座る幼なじみの穂香にオレはそう問いかけた。
寒そうに身体を縮こませる彼女の手には缶の飲料が見える。
穂香はこちらに顔を向けることなくポツリと答えた。
「ないしょ」
内緒って、あーた……。
教えてくれたっていいのに。
隠す必要ある?
ちゃっかり両手で缶を包み込むように持ち、商品名をわからなくさせてるし。
「じゃあ、当ててやろうか」
オレは挑発的に声を発した。
すると穂香は微動だにせず「いいよ、当てられないと思うから」とか抜かしやがった。
なめやがって。
「お前の好物くらい把握してるぜ。カフェオレだろ?」
「ぶー」
違うの?
三度の飯よりカフェオレが好きなこいつがカフェオレを飲んでないなんて。
カフェオレ味のお菓子があったら迷わず買うこいつがカフェオレを飲んでないなんて。
信じられん。
「じゃあコーヒーか?」
「ぶー」
コーヒーでもなかった。
まあ、穂香は昔から苦いもの系は苦手だったからな。
ということは……。
「ココアオレ?」
「ぶー」
ガッデム!
ココアオレでもなかったか!
しかしまだ選択肢はある。
ココアオレが違うならミルクセーキかホットレモンか……。
「ねえ、もしかして思いついたの片っ端から言おうとしてる?」
「そうだけど?」
「それズルいよ。当ててやろうかって言っといてお手付きなしで何回も言うなんて」
「ダメか?」
「ダメじゃないけど条件つけてほしい」
「条件?」
「お手付き一回につき、私の言うことなんでも一回聞くこと」
リスク高っ!
別にこいつが何飲んでるのかなんて全然興味ないのに、間違えたら言うこと聞かなきゃいけないなんて、そんなリスキーなことできるわきゃない。
「逆に当てられたらそっちの言うことなんでも一回聞いてあげる」
「乗ったあああぁぁぁーーーっ!!!!!」
ふふふ、これだよこれ。
これこそが勝負ってもんだ。
「よし、ぜってー当ててやる」
「今までのお手付きはおまけしてあげるから、これから答える分からでいいよ」
「気前が良くて助かるぜ」
とはいえ、選択肢が多くて迷う。
カフェオレだと思ったら違ってたし、ココアオレも違ってた。
この寒空の下、まさか「つめた~い」ジュースを飲んでるわけもないだろうし。
そもそもこいつはどこでそれを買った?
購買部?
下の自販機?
思い出せ。
こいつの手に持ってるものが売ってそうなところを。
購買部は今、昼休みに突入したばかりの激戦区だ。
人混みが苦手なこいつがわざわざ飲み物を買うためだけに購買部に行くだろうか。
答えは「否」だ。
となると、買ったのは下の自販機だろう。
下の自販機には何が売っていた?
思い出せ、思い出せ。
「残り30秒でーす。チッチッチッチ……」
「おい待て! なんだそれは!」
「だってずっと考えられたらそっちが有利じゃない」
「そりゃそうだけども……」
「残り5秒……」
「わーーーー、待て待て! ミルクセーキ! 答えはミルクセーキだ!」
「ぶー」
のおおおおおおおおん!
ことごとく予想を外しまくっている。
もしかして乳飲料だと思ってたけど違うのか?
「お手付き一回だから私の言うこと一回聞いてね」
「……わかったよ。でも勝負は続けていいんだよな?」
「いいよ。お手付きが増えるかもしれないけど」
よし。
正直、こいつの命令は怖いがここは退けない。
なんとしても当てて穂香に命令をしてやるんだ。
「制限時間は1分ね。チッチッチッチ」
焦るな。
さっきはいきなりタイムリミットを言われて焦ってしまったからダメだったんだ。
焦らずじっくり下の自販機で何が売ってたかを思い出せば……。
えーと、上から順にコーヒー、コーヒー、コーヒー……。
………。
いかん、コーヒーしか思い出せん!
下から思い出してみるか。
えーと、コーヒー、コーヒー、コーヒー……。
……コーヒーしかないやん。
「残り10秒でーす」
「わー、待って待って! ホットレモン! ホットレモンだ!」
正直、よくわかんなくなってきたオレは、とりあえずどこかに売ってそうなホットレモンと答えた。
「……」
すると穂香はチラリとオレに目を向け、また自分の手元に視線を移した。
「ファイナルアンサー?」
お、これは……。
当たってるかもしれない。
「ファイナルアンサー」
「ぶー」
おおおおおおぉぉぉいっ!!!!!
なんだよ、今の思わせぶりなタメは!
「これでお手付き二回だね」
「くっ、オレとしたことが」
二回もこいつの命令を聞かないといけないなんて。
「降参する?」
「……しない」
こうなったら意地でも当ててやる。
こいつが何を飲んでるのかを。
「またお手付きするかもしれないよ?」
「わかってねえな。男には引くに引けねえ時ってものがあるんだぜ」
「セリフはカッコいいのに状況がダサい」
うっさいわ。
「じゃあラストチャンスね。これで外れたら答え言ってあげる」
「ラストか」
面白い。
絶対当ててやる。
「はい、回答スタート。制限時間は1分です。チッチッチッチ」
穂香が飲んでいる飲み物。
カフェオレでもコーヒーでもココアオレでもミルクセーキでもホットレモンでもなかった。
となると、残る選択肢はただひとつ。
「わかった、甘酒だああぁぁぁ!」
オレの回答に穂香は時間を数えるのをやめて顔を向けた。
「……なんでそこで甘酒が出てくるのよ」
「ち、違うの?」
え? もしかしてまたハズレ?
「甘酒なんてこの学校に売ってないでしょ」
ああー、そうだった!
オレのバカバカバカバカ!
「ということで、全部ハズレだね」
くっ、まさかすべて外すなんて。
オレのプライドずたずただぜ。
「答えはねえ、コーンスープでした」
「こ、こーんすーぷ?」
「そう、コーンスープ」
「あのつぶつぶが最後まで残って取れないあのコーンスープ?」
「あのつぶつぶが最後まで取れなくってモヤモヤするあのコーンスープ」
ひいっ!
何考えてんの、こいつ!
あの恐ろしい飲み物を飲んでたなんて!
「ふふふ、3回お手付きだから3回命令できるね。何をお願いしようかなー」
「ち、ちょっと待て!」
「ん? なに?」
オレはよからぬことを考えてそうな穂香を手で制して条件をつきつけた。
「その前にもうひと勝負だ。オレが飲んでるものを当てて見ろ」
「そっちが飲んでるもの?」
何を隠そう、オレも購買部で飲み物を買っていた。
それをずっと隠し持っていたのだ。
まあ、口をつけてるから隠す気は全然なかったけど。
「オレが飲んでるものを当てたら命令を聞いてやる。ただし外れたらお手付き一回につきお前の命令は一回相殺させてもらおう」
我ながらいい案だぜ。
こいつはオレの飲み物に一度も興味を示さなかった。
ということは、3回どころか4回、5回と外れる可能性がある。
「もし当てたら?」
「お前の命令権が1回増える」
まあ、当たりはしないだろうがな。
「わかった」
「よし」
ふふふ、バカめ。
オレが買った飲み物など、絶対当てられるわけがない。
なぜならオレもよくわかってない飲み物なのだから。
「えーと、おしるこ」
「……へ?」
「おしるこ」
「……」
オレは隠し持ってた飲み物を目の前に取り出す。
少し赤みがかった黒いその缶にはでかでかと
「おしるこ」
と書かれていた。
「マジでっ!?」
怖っ。
マジで当てたよ、こいつ!
怖っ。
「さっきチラッと見た時、コーヒーっぽくない色だったからまさかとは思ってたけど。当たった?」
「……はい」
「やったー! じゃあ4回命令聞いてね!」
「……はい」
こうしてオレの学園生活はこいつに支配されることとなった。
あーれー。
おしまい
お読みいただきありがとうございました。
たぶんシリーズ化はしません、すいません(;´Д`)