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第2話 ギルド

気付いたら朝だった。

窓から眩い光が差し込んでいる。


やってしまった。

まあ、気にしても仕方ない。

服を着替えたいというか、水浴びしたい。


部屋を出て受付まで行く。

すると、メリアさんがいた。

こちらに気づいたリリさんに声をかけられる。


「リリさん、おはようございます。もしかして、あれからずっと寝てました?」

「おはようございます。お恥ずかしながら、しばらくちゃんと眠っていなかったので」

「眠れたようでよかったです」

「水浴びしたいのですが、桶はありますか?」

「ありますけど、水は大丈夫ですか?」

「大丈夫です。自分で出せるので」

「魔法でしょうか。わかりました」


正確には魔法ではないのだけど、大体そんな感じのものなので訂正はしないでおいた。

もう一つ質問した。


「洗濯ってどうすればいいですか?」

「自分で洗濯される場合と、お金を払って洗濯を依頼される場合がありますね」

「さっきの桶使ってもいいですか?」

「いいですよ。ではご自分でされるということですね。干し場が必要でしたら、ご案内しますけど」

「それも大丈夫です。ただ、水を捨てる場所は教えてください」

「わかりました。魔法って便利ですね。では桶をお持ちしますね」


そんなこんなでメリアさんに桶を部屋まで持ってきてもらった。


桶に水を溜めることにする。


周りにいる精霊に声をかける。


「お願い」


声に意志をのせて伝える。


するとすぐに温水が桶に溜まった。


それから服を脱いで、身体を温水で濡らした布で拭いて、新しい服に着替える。


水の溜まったままの桶をさっき聞いた庭の隅に捨てる。


一緒に持ってきた汚れた服は手で洗うのは面倒なので、全部精霊に任せることにする。


中空に大きな水の球を浮かべその中に洗濯物を放り込む。

あとは、それをしばらく攪拌させたあとに、水を流す。

風によって中空に浮かんだままの服は温風で乾かす。

そんな作業を10分ほど行ったら洗濯完了。


土で浴室作ろうかななどと庭を眺めながらもそれは自重することにする。

私の土地じゃないし。


洗濯物を自室に置いてから、食堂に向かう。


食堂では何人か食事をとっているようであった。宿泊客だろうか。


カウンターで声をかけて朝食を頼む。


温かいスープとパンとサラダ。

シンプルだけど、割と美味しい。


パンを口にもぐもぐと頬張りながら、今日何をするか考えていた。


とりあえず、お金がないので、どこかで働かないと。


昨日、門番の人から読み取った限りでは、ギルドにはいくつか種類があって、冒険者ギルド、商人ギルド、魔術ギルドなどがあるらしい。

行くなら冒険者ギルドかな。


食事を終えると、宿屋を出て、冒険者ギルドに向かう。


人通りは朝から割と多い。さすがに大きい街なだけはある。

周りの人を見ると様々な服装や種族の人がいることがわかる。

人族以外って初めて見た。知ってはいたけど。

お金ができたら、可愛い服増やしたいな。今最低限しかないし。芋っぽいし…。


そんなどうでもいいことを考えていると冒険者ギルドに着いていた。


ドアを開けて中に入る。


中はホールのようになっていて、朝なのに人が沢山いて賑わっていた。


「すごい」


思わず声が漏れてしまう。

少し様子を見ていると、受注する依頼を吟味しているようだった。

早い者勝ちといった様相で、熱気が伝わってくる。


窓口が混雑しているようだったので、隅にある長椅子に座って、冒険者たちの様子をしばらく眺めていることにした。情報収集はたいせつ。


数人の受付の人や10人程度の冒険者の思考を読み取った結果、冒険者の基本ルール、モンスターの分布、出現した盗賊の情報など、情報量が多すぎて気持ち悪くなってきた。冒険者に混じって、何人か不審な人も混じってるし。


他に座っている人もいなかったので、長椅子で横になって少し休むことにした。

しばらくすると、人の数が減ってきたので、窓口に行って、声をかける。


「すみません。冒険者登録をお願いしたいのですが」

「はい、わかりました。あの…体調大丈夫ですか?先ほど横になられていたようですが」


見られてた。

少し恥ずかしい。


「大丈夫です。ずっと田舎で過ごしていたので、人混みにあてられてしまったみたいで」

「朝のギルドは人がすごいですからね。では、登録の方に入りますね」


それから水晶に手を乗せたり、用紙に記入したり、簡単な説明を受けて、登録が終わった。


「こちらがギルド証となります。再発行はお金がかかりますから、気をつけてください」


金属製の板状のものを貰う。名前とランクが記載されている。

穴に紐が通されており、首からかけられるようになっている。

ランクはEランク。最低ランク。

最上ランクはSランクらしいけど、ドラゴンでも倒さないとなれないから、実質的にAランクが最上ランクになっているらしい。

英雄とか言われる人がSランクだそうだ。人間やめてそう。

冒険者登録は終わったので、壁に貼られている依頼を眺める。


モンスター退治から家の清掃の手伝いまで。

いろんな依頼が所狭しと貼られている。

ただ、報酬が依頼と見合っていなかったり、依頼の難易度が高すぎたりするものなど、癖の強い依頼が残っているように思える。残り物といった印象。


正直リスキーな仕事をして稼ぐよりは、安定した仕事の方が嬉しいのだけど。


冒険者って細々と日銭を稼ぐか、危険な仕事で一気に稼ぐかといった感じで二極化してる気がする。まあ、私なら危険な仕事でもいけるだろうけど、体力そんなにないから肉体労働はちょっと…。


掲示されている依頼にはあまり魅力を感じなかったので、別のアプローチを取ることにした。


さっき受付の人の思考を読み取っている時に、人手が足りていないような情報があった。

なので、受付で働くのはどうかと。

朝と夕方は忙しそうだけど、それ以外は割と暇そうだし、性に合ってる気はする。


そう思い立つと、受付に向かう。


「すみません」

「はい。リリさん。依頼の受注でしょうか?」

「いいえ。あの、私冒険者ギルドの受付で働きたいんですけど」

「求人は出していなかった気がしますけど…。少々お待ちください」


受付の人はそう言い残すと、階段を登って行ってしまった。

何か確認するのかな。


少し待つと、受付の人が戻ってきた。


「ギルドマスターがお会いされるそうです。こちらへどうぞ」


促されるまま、受付の奥にある階段を登る。


…あれ、これこのまま面接でもされるのかな。

ちょっと緊張してきた。


2階の廊下の奥まで来たところで、受付さんがドアをノックする。


「マスター、お連れしました」

「どうぞ」


部屋に通されると、筋骨隆々とした男が座っているのが見える。


「では、私はこれで」

「ご苦労」

受付さんはお茶を2杯入れたあと、一言断ってから、出ていってしまった。

気まずいんですが。


ギルドマスターと呼ばれる男に促される。


「まずは、座ってくれ」

「はい」


緊張しながら、男に向かい合う形で座る。その思考を覗きながら。


「冒険者ギルド、ソラフィス支部のマスター、ギリアスだ。君は?」

「私はリリです。ソリア村から昨日この街に来ました」

「ソリア村ってことは結構距離あるな。長旅疲れただろう。で、受付で働きたいと。気概があるな。理由は?」


このギリアスさんの思考を読み取った限りでは、危険な人ではなさそう。

私をここに呼んだのは、単純に人手が足りていないのと、若い娘が飛び込みで志願してきたことに興味を持ったから。そんな感じみたい。


「最初は冒険者として依頼を受けようかと思っていたのですが、私そんなに体力ないので向いてないかなと。ただ、私の特技があれば、受付で働くぐらいはできるんじゃないかなと思いました」

「それで特技とは?」


私の技能を伝えることはリスクではあるけど、たぶんこの人なら大丈夫そうだと考えた。

だから、伝えることにした。


「精神体と交信することができます。相手の考えを読み取れますし、知らない言葉を話す人とも会話ができます。会話する対象は精霊なども含みます。精霊にお願いすれば、戦闘や治癒も可能です」

「…にわかには信じがたいが。証明できるか?」

「では、なんでもいいので何か思い浮かべてください。私がそれを読み取って、詳細情報も併せて答えます」


疑いの眼差しを向けられながらも、ギリアスさんは頭の中に思い浮かべてくれる。

モンスターかな。


私は答える。


「サファギア。ソラフィス南西部に生息する魚型のモンスター。討伐推奨ランクはC。討伐証明部位は…」


それからいくつかのモンスターに関して、ギリアスさんの知識をもとに答えた。


その結果、ギリアスさんは頭を抱えた。


「…この力はモンスターの情報に限定しないんだよな」

「はい。どんな情報でも引き出せます」


ギリアスさんが頭を抱えて唸っていると、私に向き合ってきた。


「正直うちにいても宝の持ち腐れになりそうだが。国の諜報機関で働けばいいんじゃないか」

「いやですよ。絶対雁字搦めになるじゃないですか」

「…お前一人のために下手したら戦争が起きるな。そういえば、戦闘能力って言ってたが、どの程度までいけるんだ?」

「わかりません。ただ、この街を焼き払うぐらいならたぶんできますよ」

「わかった…。お前の力は俺の胸の内に留めておく。口外したら絶対面倒が起きる」

「私もその方が助かります」


ひと段落ついたので、受付さんが入れてくれたお茶を飲む。

冷えてしまっていたけど、落ち着く味だ。


考え込んでから、ギリアスさんが切り出す。


「お前を窓口で雇用する」

「ありがとうございます」


働き先が決まったようでよかった。

そんなことを呑気に考えていると、話しかけられる。


「ちなみに冒険者ギルド登録時の職業は?」

「精霊使いとしています。間違ってはいないと思うので」

「わかった。相手の考えが読み取れる力については極力口外しない方がいいだろう」

「わかってますよ。大丈夫です」

「戦闘能力に関しても、人の範疇にとどめてくれ。下手したらお前を討伐する依頼が発生しかねない」

「私別に戦闘が好きというわけじゃないので。力はある程度は自重します」

「お前今Eランクだったな。面倒を避けるためにAランクまでどこかで上げておいてくれ。小物が絡んできても面倒だろう」

「恐れられたいわけではないのですけど…。まあ、わかりました。どこかで依頼を受けてランク上げておきます」


そんなやりとりを経て、受付で働くことが決まった。



1階に戻って、受付で挨拶をした。


さっきの受付さんの名前は、リンディさん。

他にもイースさん、カエンさんの2人が受付で働いていた。


「ここで数年働いてるけど、飛び込み即雇用はあなたが初めてね。よろしく」とはリンディさん。


「ちょうど一人やめて人手が足りなくなってたらから、マジで助かるわ」とはイースさん。


「よろしく」とはカエンさん。口数が少ないのかな。


その人はリンディさんから仕事内容の説明を受けて、働くのは明日からになった。


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