第1話 街
世界はとても広くて。
けど、触れられる世界はとても狭くて。
それでも私は生きてるから。
広い世界が見たかったから。
—
「到着!」
乗合馬車から降りて、身体を伸ばす。
村からいくつかの馬車を乗り継いで、この街ソラフィスにやってきた。
「うーん」
凝り固まった身体を伸ばすように、手を組んで伸びをする。
ずっと馬車に乗っていると疲れる。
さて、っと。
街の周りは壁に囲まれていて、門の前に行列ができていた。
とりあえず、列に並ぶことにした。
しばらく待つと順番が回ってきた。
筋骨隆々として、大柄な男。
いかにも兵士といった佇まい。
男の人に聞かれる。
「身分証は?」
「ありません」
「名前は?」
「リリです」
「どこから来た?」
「ソリア村からです。」
「目的は?」
「働くことと観光です」
「なら、水晶に手をあてて」
その人に言われるままに、水晶版に手を載せた。
なんだろ、これ?
すぐに青く光った。
気になったので聞いてみた。
「なんです?これ」
「危険人物を識別できるんだよ。とりあえず、あんたは問題なしだ」
すごいものがあるものです。
さすが村とは違います。
男の人が続けて話しかけてくる。
「通行料は銀貨10枚だ」
ローブの中に入れていた皮袋から銀貨10枚を取り出す。
「はいどうぞ」
「よし。入っていいぞ」
とりあえず入れるようだ。
一安心。少し緊張が溶ける。
せっかくなので聞いてみる。
「通行料って毎回徴収されるんですか?」
「免除の方法はいくつかあるが、ギルド証を持つのが一番手っ取り早いだろうな」
そう言っている男の瞳を覗き込む。
その瞳の奥の奥まで。
…なるほど。
知りたいことは大体わかったので、その場を去ることにする。
「ありがとうございました」
「おう。トラブル起こすなよ」
門を通ると、様々な建物が立ち並んでおり、活気に満ちていた。
人がいっぱいいる。
すごい。すごい。すごい。
はやる気持ちを抑えて、宿屋を探すことにした。
さっきの人から、おいしいパン屋の情報から武器庫の暗証番号の情報まで読み取ったから、生活する上で困ることはなさそう。
必要のある時以外はあんまりこの力は使いたくないのだ。
いろんなものに目移りしながらも、さっきの人が知っていたよさそうな宿屋にたどり着いた。
宿屋に入り、受付にいる人に声をかける。
「すみません」
「はい。なんでしょう?」
10代ぐらいかな。金髪ショートの女の子。
相手を覗くことにした。
家族経営で娘さんのようだ。
名前はメリア。年齢は15歳。ということは私と同い年か。
この人にもこの宿にも特に不審な点はなし。
空き部屋はあり。
ならここにするか。
「私今日初めてこの街に来たのですけれど、宿泊ってできますか?たぶん長期になると思うんですけど」
「はい。大丈夫ですよ。一泊銀貨50枚ですけど、大丈夫ですか?」
ちょっと高いけど、金策なんてどうとでもなるでしょ。たぶん…。
「大丈夫です。お願いします。
「わかりました。長期ということですが、何泊分支払われますか?」
「まず、7泊で。延長する際は、またそのその際にお支払いします」
「わかりました。それではここにサインを」
促されるままにサインする。
リリ、と。
「リリさんですね。私はメリアといいます。それではお部屋にご案内しますね」
メリアの後についていく。2階の一室に通される。
「こちらになります。朝と夜に1階の食堂に来ていただければ、お食事をご用意できます。宿泊代には食事代も含まれています。では失礼いたします」
メリアが出ていくのを見届けた後、ローブを脱いでベッドに倒れ込む。
とてもとても疲れた。
観光しようと思っていたけど、明日にしよう。
うとうととして、そのまま眠りについた。