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知恵の戦争  作者: カリナ
3/7

シーズン1 第一幕ー決死の賭け事②ー

すみません。更新遅れてしまいました。今回は台詞多めですが、次回は地の文もありますので、手抜きでは無いです。主人公の状況整理にお付き合いくださいませ。

 ゆっくりと入ってきたフードの男は、両手を頭の後ろで組みながら、酷く青ざめた顔をしていた。男と共に、上下水色の軍服を着た赤い髪の女が、ピストルを構えながら入室する。


「すまない。しくじった」


「ゆっくり壁際に寄って膝を付けなさい」


 頬にそばかすの付いた可愛らしい丸顔に反して、水色の冷徹な眼差しを僕らに向ける。


「にしても、君一人でよくもまぁ巨体のヴァンを捕らえられたね」


 誰がどう見ても危機的状況のはずなのだが、金髪の男は不敵な笑みを絶やさずに、挨拶をするかのように皮肉を発する。


「黙りなさい」


「はいはい」


「私が最初にやるべきなのは、そこの子供の尋問よ。あなたたち二人はその後で」


 そう言い放つと彼女は僕を睨みつける。ふざけた答えを返したら今にも殺されてしまいそうな勢いだ。


「君は一体何者なの」


「何者と言われても、自分は貴族の子供だ」


 そう言った次の瞬間、彼女を捕らえていたはずの瞳は天井の石壁を映していた。同時に臀部に鈍い痛みが走り、咄嗟に両手を床に着いた。状況はすぐに分かった。彼女が僕の椅子を蹴り飛ばしたのだ。


「ちょっ」


 短く鋭い爆発音が部屋に響き渡り、鼓膜が嘆いているのを感じた。僕が彼女を制止するよりも早く、彼女は引き金を引いていた。火薬のにおいが蔓延し、振り返ると銃痕が床に残っている。確かに僕は今撃たれたのだ。額の上にある重たい金属が僕を貫き殺したはずだった。


「おかしいわ」


 彼女は震えながら後退る。


 「馬に撥ねられそうになった時も、銃を突き付けられた時も、銃を撃った時もそうだわ。彼に危害が及びそうになると、物体はまるで彼がここにいないかのように透けてしまう…。なのに、ヴァンがあなたを担いだ時や椅子に座った時はどうして…。今思えば服だってそうよ。どうして彼はすっぽんぽんじゃないのよ!この子何かおかしいわ!」


 「僕だって自分が何なのか分からない!」


 彼女が持つ銃は狙いを見失って右へ左へと泳いでいた。そこへ金髪の男が背後から近づき、彼女の首を絞めながら自分の持つ銃を背に当てた。


「抵抗するな。大声を出せば撃ち殺す」


 彼女は苦しみつつも何とか首を縦に振る。それを確認すると、彼女の首から腕を解いて銃を取り上げた。


「訓練がなってないな。俺の恰好を見て銃を持っているとは思わなかったのか」


「ホルスターには無かった」


「甘い甘い。事が済んだら俺たちは身を隠す。暫くそこに座ってな」


 彼女を壁際に座らせると次は僕の番だった。


「暴力では死なないことはたった今確証へと変わった。でも餓死はどうかな。試す価値がありそうじゃないか。何時間も何日も、空腹で胃が軋み始めても、喉が極限まで乾ききっても何も飲み食いできない。想像できるか。貧民街では当たり前の出来事だ。君が本当のことを話せば不自由のない生活に戻してやる。さて、どうする」


「さっきも言った通り、僕は呪いをかけられた」


 金髪の男とヴァンという人物は僕を助けたわけでは無いようだった。結局命が脅かされていることには変わりは無かったのだ。ここは正直に話しているという印象を与える方が良い。病院で死んだと思ったら若返ってこうなりましたなんて言えば、信じてもらえないどころか僕の発言はほとんど信憑性が無くなってしまうだろう。ふざけているやつだと思われるのが一番良くない。何とか丸く抑える方法を思いつかなくてはならない。


「その呪われた経緯を話せ」


 本当に僕の体が透明に見えているかのように、心の内側を見透かす眼光を向けられる。これ以上嘘を重ねてもぼろが出るだけだろう。この世界のことを何一つ知らない状態で虚言を繰り返しても、底のない沼に沈むだけだ。


「記憶が無いんだ」


「さっきと言っていたことがまるで違う。詳しく説明するんだ」


 銃が意味を無さいからか、諦めたような顔で銃を床に投げ捨てて先ほど座っていた丸太に腰を下ろす。


「ヴァンは彼女を見張っていてくれ」


「了解」


「これから話すことは本当のことだ。決して嘘は言わないし、僕はあんた達が割って入ってこなければ訳が分からないまま拘束されていただろう。或いはたった一人で逃亡生活を送る羽目になっていたはずだ。君たちには感謝しているし、出来れば色々なことを教えてほしい」

 

 金髪の男は時間をおいて頷いた。表情から傾聴の姿勢が見られ、口を割ってくる様子は無いようだった。ヴァンや女も同じように黙っている。


「記憶があるところから話すと、今朝森の中で目が覚めた。僕を囲むように木々が立ち並んでいて、咲き誇る草花の上で横たわっていた。適当に歩きだして暫くしたら水の流れる音が聞こえた。そこで水の流れを辿っていけば人のいる場所へとたどり着けると思った。水があるところには文明が成る。それは理解していた。そして、正午を過ぎた頃だったと思う。オレンジ色の屋根の大きな建物が連なっているのを見つけた。近づいてみると住居だということが分かり、歩みを進めた。早く人に出会いたくて路地裏を走っていったら躓いて、その勢いでパレードのど真ん中に出てしまった。後は知っての通りだ。呪いなんて話はでっち上げだし、貴族なんて言葉も初めて聞いた。自分は何歳で、どんな容姿をしているかも思い出せない。だからさっきあんたに質問したんだ。両親も、自宅も、友人も何も分からない。なぜか覚えているのは、言葉や物の使い方といった具合だ。さっき歴史を知りたいと言ったのはこの世界のことを全く覚えていないからだ」


 この体になる前のことを省いて正直に話した。可能性はゼロに等しいだろうが、信じてもらうしかない。

 三人の様子を伺うと、全員何か言いたげだった。それもそのはずだ。忘れていることと覚えていることが曖昧だからだ。この世界と、以前の世界が共通していることは今話した、覚えている部分だ。老人だったころを伏せながら、記憶喪失として説明するには無理があった。


「その話を信じるなんてことはあり得ないぞ。滅茶苦茶過ぎる…」


「自分でもそう思うよ」


「ヴァンどう思う」


後ろを振り返り、ヴァンの意見を求めた。ヴァンはフード越しに頭を抱えながら唸る。


 「信じ難いが…でも会場での叫び方は本気だった。何か妙な目的があってあの場に出たようには思えなかったし、何よりこんな子供が軍を敵にするような事情が思い浮かばない。しかしな……」


「ヴァンの言いたいことは分かるよ。子供のわりに勇敢で、何も知らないにしては嘘を信じ込ませるだけの情報を喋った」


「嘘のシナリオは咄嗟に思い付いた。怪物や魔物は意思を持たないって言っていただろ。それで何となく、人間は魔物についてよく理解しているんじゃないかって思ったんだ。そして、あんたに質問したのが決め手だった」

金髪の男が結論を出せないと言うように頭を掻く。


「隊長にも質問していたし、本気で魔物を知らなかった可能性は高いけどな…」


「一ついいかしら」


 今まで黙っていた赤髪の女が口を開いた。


「あなた王に向かって銃を向けたわね。躊躇いもなく」


「そうだ。そこの男を人質に取って逃がしてもらうつもりだったが、王とやらは部下の命を惜しまなかった。無駄だと分かり、王自らの命なら守るであろうと思い咄嗟に銃を向けた。それ以上の理由は無い。一瞬の出来事だった」


 この場にいる全員が沈黙する。誰もが呆気に取られており、言葉に詰まっている様子だった。彼らから見える僕は子供らしい。そんな子供が人質を取ってみたり、この場所のトップであろう王を撃ち殺そうとしたりしていることに驚いているのだろう。もし自分が彼らと逆の立場だったら、危険極まりないサイコパス少年だと思うことだろう。


「危険な人格破綻者だと思うのも無理はない。僕みたいな少年が命の駆け引きをしたんだ。僕と関わりたくなくなったならそれで構わない。軍服の女性には申し訳ないが君たちのことを口外したりはしない。その代わり、俺を監禁しないでくれ。約束しよう。俺も逃亡犯だ。この意味が分かるだろう」


「考えが纏まった。ヴァンいいか」


「俺はリーダーに付いていく」


「よし」

 

 金髪の男は両手をパチンと叩いて立ち上がる。僕を見下ろしながら、再び不敵な笑みを浮かべて手を差し出した。


「少年よ。僕に協力しろ」


 その一言で察しがついた。僕は仲間に加わるのではない。彼と交渉をするのだ。


閲覧ありがとうございました。引き続きよろしくお願いします。次回からは大2幕が始まります。

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