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知恵の戦争  作者: カリナ
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シーズン1 序章

not主人公最強。notハーレム。ちゃんと努力します。なろうはサブツールとして使用します。物語の進行は、海外ドラマの方式を取り入れ、1シーズンにつき数章の構成で、好評なら続編を出したいと思います。1シーズンで完結させております。シーズン1は最終章まで作成済み。毎日一部投稿致します。反響、執筆力量、物語としての面白さを確認したいので、面倒でなければコメントをお願いします。

序章 終幕

 

 一切の装飾もない無機質な天井を見上げる生活になり、早一か月。色の付いていた世界を眺めることはもう無い。意識がある時間は、自身の輝いていた頃を歩み返しては立ち止まり、もう一度同じ場所を歩き直す。そんなことを繰り返していた。そうやって幾度となく得てきた満足感は、氷に染み付いた甘い味を、ほとんど無味になるまで、少し溶けては一口飲み、また少し溶けては一口飲むといった具合に、名残惜しい甘さへと変化しているのを感じていた。これほどまで根強く残る幸福の味がする功績など、人生ではほんの一瞬の出来事だった。今思い返してみれば、そのほんの数分で終わってしまうようなエピソードを何十年とダラダラと時間をかけながら描いていたのだ。なんて馬鹿らしい話だ。一日一日を必死で生きていれば、この最期に歩み返す道も長かっただろう。何時間とかけて思い返し、後味もずっと残るような華々しい濃い人生を歩めば良かった。今更後悔してももう遅い。


「はーい。お着替えしますね」


声のするほうに顔を動かすと、すぐ近くを動く影が見えた。視界に入るもののほとんどは白く霞んで見える。影は一度遠退き、忙しなく動いてから再度自分に近づいた。


「体少し起こしますね」


自分で自分のことも出来ない体になってしまった。もうしばらく食事も摂っていない。薬の力で生き永らえ、他人の労働で日々を過ごしている。これを生活と言って良いのか甚だ疑問である。自分を慕う家族や友人でもいればこんな状況にも感謝をするだろう。自分はその何一つ持っていない。無駄に容姿端麗だった為に女に溺れ、遊ぶために妻子を持とうとせず、両親には難癖付けて家を出たまま終わってしまった。利益になる人間としか関わらなかったために友人もいない。唯一の妹も、肉親というだけで居て居ないようなものだ。いつの間にか婚期を過ぎ去り、年を食い、残ったのは母の形見であるこの肉体だけだ。両親が残した遺産は自分で使い切った。


————人は何のために生きるのか————


重い瞼を、鉛のような声帯を震え上げる。

自身の何の実のない人生でも、今ようやく気付いたことがあった。これは死を目前に控えた者でしか感じ取れないことなのかもしれない。人が生きる意味なんて、誰かに聞いて教えてもらうものなんかじゃな

い。人が存在する意味をこの世界に残そう。


————それは————


 不意に眩しさを感じた。どことなく懐かしさのある感覚だった。ふと、自分が四肢を広げ大きく伸ばしていることに気がついた。この懐かしさの正体は、意識が戻り、体が自由に動くようになったあの感覚。起床を感知した。カーテンから差し込む光に当てられて新たな一日を迎えるあのひと時だ。眩い光の正体は、久しく浴びていない太陽光だった。背中はベッドとは違う、ふさふさとした感触に包まれている。お日様に手を振るように影を作り、辺りを手探りで調べる。


「花だ」


首を力ませて右を向くと、奇麗な花弁が眼前に広がった。


「どうなってんだ。これ」


鎖につながれていたように動けなかった体が面白いくらいに動かせる。気合を入れずとも上半身が起き上がり、手すりを掴まずとも下半身の力だけで直立ができていた。色のなかった世界に、鮮やかな輝きが映り込む。薬品の臭いは一切しない草花の香り。光が、風が、大地が自分を迎えているような、そんな気がした。走馬灯を見ているのか、はたまた死後の世界なのか。辺り一面に色とりどりの花が咲き誇り、地平線の先には大きな大木が連なっているのが見えた。それもこの花園を取り囲むように生い茂っている。

 

 混乱したままとりあえず歩を進める。難なく動く体に妙な違和感がするが、森に入った頃には慣れてしまっていた。元の体を取り戻しただけと言ってしまえば聞こえは悪いが、状況が状況なので昔のように動けるということに感動した。違和感は体の感覚だけでない。肌を滑る繊維が病院服のそれとは別物だった。若い頃に幾度か着こなしたブランドの服と同じ肌触りだ。しかし、服の後ろまでは確認できないが、コスプレイヤーが着ているようなローブに近い見た目をしていた。薄い緑色がベースになっており、広すぎる袖から肩にかけては赤いストライプ柄が刻まれている。ズボンはシンプルな茶色一色で、サルエルパンツのようなデザインだ。誰が着せたのか、山を歩くには不向きな服装に苦労を強いられている。

 

 どれくらい歩いただろうか、自分の目の前にあった太陽が頭のてっぺんまで昇っている。幾度となく鹿や栗鼠、見たことも無い狐のような動物に遭遇したが襲ってくることは無かったために、一切のハプニングなく無心に歩き続けた。どこに向かっているかわからないという恐怖や不安は無かった。それは自分が確実に下山しているという確証があったからだ。歩きはじめてすぐに水が滴り落ちているのを見た。微妙に濡れた地面を辿っているうちに、水溜まりへ辿り着き、そこから小さな川となって流れていたのだ。その流れに沿って歩いてからかなりの時間が過ぎた。気が付けば川は大きくなっており、現在、森を抜けた。そこで見た景色は、橙色の密林のようだった。


 森の出口からその場所までは石畳が敷かれてあり、川はその中へと続いていた。まっすぐ歩いていくうちに、段々と人の声が薄っすらと聞こえてきた。橙色の屋根に灰色の壁の住居が目の前に聳え立ち、同じような造りの家が無数に存在している。森の中から歩き始めて半日、行き着いたのは巨大な街だった。頭の中の整理がつかないまま街へと入り込む。


「一体ここはどこなのか、自分の体はどうなってしまったのか、当面の目標はこれで行こう」


半日ぶりに声を出し、また歩き始める。



最期までご覧いただきありがとうございます。引き続き、投稿をお待ちください。

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