十話 魔王様本格的レッスンを受ける
歯車は動き出します。ただ、忘れないであげてください。
「ワン!ツー!スリー!ストップ」
オネェが手でカウントをとるのをやめ、ストップをかける。それと同時に私たちの動きも止まった。
「ナデシコちゃん。ツーカウントの後のステップが遅れてるわよ」
「すみません!!」
「マオちゃんは、全体的に遅れてるわよ。もう少しついてきて」
「はい!!」
「マキナちゃんはタイミングは合ってるけど、もっと振り付けに感情を!!」
「わかりました」
三人それぞれの指摘を受け、それぞれが反応する。
あのあと、レッスンが始まったのだが思ったよりも本格的で、ついていくのに必死だった。
「はい!今日はここまで。明日は今日より十分前に来ること。それと二分前にはストレッチに入ってね!」
「「「はい!!」」」
「それじゃあ、解散!!お疲れ様。ゆっくりやすんでね」
そう言って、オネェは部屋を出ていった。
「ふぅー………」
私はあいどるらしからぬ声を出して、汗をタオルで拭う。
「お疲れ……大丈夫だった?」
同じく汗を拭っているナデシコが、話しかけてくる。
「ううん。全然着いていけなかった」
「大丈夫だよ!私も途中でバテたりしてたから!」
「一緒に頑張ろう」と、手を差し伸べてくるナデシコ。いい子だなー。親がよほどしっかりしてたのだろう。
そんな失礼な事を考えながら、一人で居るマキナに目を移す。
彼女は手帳のような物に、何かを書いている。
「何してるの?」
同じことを疑問に思ったのか、ナデシコが覗き込む。
「別に。アンタたちには関係ないわよ」
不機嫌そうに言って、マキナはパタンと手帳を閉じる。その額には汗すら浮かんでいなかった。
「帰る」
マキナは気まずくなったのか、いきなり荷物を仕舞い簡素なバックを持つ。
「待ってよ!」
ナデシコも急いで仕舞い始め、マキナの後ろを着いていく。
私は、青春的な何かを見るような目で見守っていた。
「……ぁ゛あ゛疲れた」
鳥の鳴き声が響く小道を歩きながら、声をあげる。マキナは汗すらかいていなかった。それに対して私は!
夕焼けに照らされ、火照った体を優しく吹く風で冷ます。
勝手にライバル視して申し訳ないが、マキナには負けては居られない。
そう一歩踏み出す。
「えぢあねるさをわいさたわ」
そう風が、変な事を言ってるように聞こえた。
「え?」
驚き辺りを見回す。誰も居ない。
「でいなれすわをしたわ」
気づくと目の前には、今にも消えそうな女が居た。まるで私に何かを伝えたいのか、必死に何かをいっている。
「誰……だっけ?」
見覚えのあるハズなのに、名前が出てこない。
あの綺麗な顔は………。
「わたしをわすれないで」
確かに最後そう聞こえ思い出せないまま、その消えそうな女は、微かな風と供に消え去った。
「なんだったの?」
頭のなかで矛盾が起きる。絶対に見たことがある思い出すと体が言う度、そんなのはないと、脳が否定する。
分からない……何がどうなって──。
「おーい可愛い子ちゃーん」
私の考えを遮るように、後ろから誰かがハグをする。
「誰……です……か?」
「誰って酷いな……私だよ私。八代目勇者のサクラだよ」
そうだ(違う!!)。この人は(違う?)、勇者の……。
「こんな所でなにしてんの?」
えっ……。何してるんだっけ?
そうだ。私は今、レッスンの帰り道だった。
「いえ、レッスンの帰り道で」
「あー。アイドルになるとか言ってたね!」
あー、なんか言った気がする。
「頑張れよ、魔王様!」
そう茶化す勇者。
「えぇ。言われてなくても」
「おぉ!言うじゃーん」
そうして、二人で夕焼けの中で笑いだす。
そこに、一迅の生ぬるい風が吹いている事を知らずに。
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