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探偵のオペラ【15】


「それで、稲葉さんは暗闇の中で匠さんに首吊り用の縄をかける手伝いをしたんですね」

「そうだよ……。だけど、俺は普段通りにやったし、匠がへまをした様子もなかった。俺は劇中であいつの首を絞めるところがあるんだけど、それもあいつが苦しんでる振りをするだけで俺ががっつり首を絞めてるわけじゃねぇんだよ」


 彼は眉間に皺を寄せ、猫谷刑事の胸元の少し左あたりに視線を漂わせながら答えた。ふと、俺の隣にいた砂橋が自分のコートのポケットから白い綿の手袋を取り出した。それを両手にはめると軽い足取りで事情聴取が行われている二人の元へと行き、いきなり屈んで稲葉新の黒く長いマントの裾を捲りあげた。


「は?」


 声をあげたのは俺の傍にいた風斗だったが、俺と熊岸警部はため息を漏らした。しかし、一番びっくりしているのはコートをいきなり捲りあげられた新だろう。一瞬何が起きたのか分からずに目を丸くしたまま硬直している。


「う~ん……何も持ってないや」


 砂橋は呟きと同時に新のマントの裾から手を離すと、空中にあったマントの裾は重力に従ってばさりと新の足に叩きつけられるようにして元の位置へと戻った。


「ちょっと君……」

「あー、猫谷ねこや。そいつはいいんだ。構うな」

「ですが、熊岸警部」

「そいつが前に言ってた砂橋だ」


 猫谷が砂橋に苦言を呈そうとして熊岸がそれを止めた。そこまでは無表情だった彼が熊岸警部の口から「砂橋」と出た瞬間に頬がぴくりと動いた気がした。猫谷の表情を気にしていなかったから気のせいかもしれないが。


「そうですか」


 猫谷が砂橋へと視線を戻すとにこにこと余所行きの笑顔で砂橋が「よろしくね、猫谷刑事」と猫谷に手を差し出した。


「……できれば、引っ掻き回さないでください。あなたは警察ではない民間人なんですから」


 猫谷は砂橋の手を取らずに次は金髪の桔平の方を向いた。彼にした質問は劇場の首吊りシーンのこと以外、ほとんど新にした質問と変わらなかった。


 まず、金城匠が意識を失った時にどこにいたか。そして、何をしていたか。

 次に金城匠に普段と違うような行動や仕草などはなかったか。


 この二つを重点的に聞き込みしていた。ロープなどは押収されてしまうだろう。

 形式ばった聞き込みがされる中、砂橋が俺と熊岸警部の元へと戻ってきた。


「猫谷刑事には嫌われちゃったらしいね」

「仕事が奪われると思ってるんだろうな。警察が民間人を頼るなんてって思ってんだろう。さすがに気になったのかそのことについて前に話した時、俺に噛みついてきやがったよ」


 熊岸警部が短い後頭部を掻いて、重たい息を吐きだした。


「警察も大変だねぇ」


 俺は胸ポケットからいつも持ち歩いているメモ帳を取り出した。


 簡単にこの八ツ寺スタジオの見取り図を描いてみる。そして、ロープの位置と降ろされた金城匠の位置。左右どちらかに寄っているということはなく、吊るされた彼の位置は舞台のど真ん中だ。誰かが手を加えるとは思えない。


「ところで今回の事件の簡単な流れを教えてもらってもいいでしょうか?」


 熊岸警部も俺と同じように手帳とペンを手に風斗と陽葵に話を聞き出した。まずは名前。今日はなんのためにここにいるのか。聞き出されている情報は俺も砂橋も知っているものだ。


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