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探偵のオペラ【10】


 舞台のセットのほとんどは動くことがなく、ずっと場所はクルミ座の舞台のままだ。夜になると照明が青くなり、夕方は赤く、昼は白い。時間が変わるごとに舞台を通過しながら話す登場人物たち。


 夜の舞台で契約を結ぶエマと悪魔。


 夕方の舞台でエマへの妨害をルノーに指示するアンネ。


 昼の舞台で練習に指示を出す人間とそれを眺める支配人のパスカル。


 夜の照明になると必ずと言っていいほど、エマと悪魔の話し合いとなる。二人はどうすればプリマドンナになれるかを話し合う。まるでとある目的に対して手を組む共犯者だ。


 しかし、人気のない夕方の舞台で、裏方のルノーはプリマドンナのアンネと話す。二人の計画はこうだ。ルノーが舞台の仕掛けに細工をして、エマに怪我を負わせる。その計画を話し終え、舞台から去る二人の背中を悪魔が眺めていた。


 その夜、悪魔はエマに「今日は明日の劇に備えて帰るといい」と助言し、エマは悪魔の言う通り、その夜は練習をすることなく家路についた。


 誰もいない舞台でこそこそと仕掛けに細工をしようと工具を持ってやってきたルノーの背に悪魔が近づく、白い幕がかけられ、二人の様子は影でしか分からない。悪魔が持っていたロープでルノーの首を絞める。


 数秒の暗転。もう一度光により影が映し出された時、ルノーの首には天井より垂れ下がるロープがかかっていた。悪魔が合図をするように片手を天井へと振り上げるとそれは舞台の天井に装置でもあるのか、ゆっくりと引き上げていく。


 体が宙に浮き、ルノーの人影が呻き声をあげて、じたばたと足を動かす。少しして、足が暴れなくなった。



 舞台はそこで暗闇に呑まれる。


 翌日、舞台に一番乗りしてきた支配人は、舞台上にぶら下がっているルノーの死体に驚いて、尻もちをついた彼の悲鳴に続々と人が舞台へとやってくる。全員、顔を青ざめさせているが、アンネだけは他の人物と違う理由で顔を歪めているのだろう。


「早く降ろすんだ!」


 クーレルの言葉に名前もない道具係が「は、はい!」と返事をして、舞台裏へと姿を消すと、すぐにゆっくりルノーの死体が床へと降ろされる。


「ルノー!」


 クーレルが駆け寄り、彼を抱き起こす。


「死んでるのか?」

「どう見たって死んでるでしょ!」


 パスカルが恐る恐る尋ね、怒りをあらわにするようにアンネがそれに答える。


「……し、死んでる……ほ、本当に……」


「誰の仕業よ!ルノーの殺したのは……そうよ、悪魔よ!このクルミ座には悪魔が棲みついているって聞いたことが」


「本当に死んでるんだ!」


「クーレル、それは分かった!落ち着いてくれ」


「違う!本当に死んでるんだよ!」


 パスカルが落ち着かせようとするも、クーレルはルノーの死体から手を離し、パスカルの襟を掴む。


「触ってみてくれ!呼吸をしてないんだ!」


 クーレルがパスカルの手を引く。


「救急車……救急車を呼んでくれ!匠が死んだ!」


 暗かった観客席が一気に明るくなって、俺は思わず眉間に皺を寄せて、目を細めて何度か瞬きした。



「ああ、本当に死んでたんだ」


 俺の隣で砂橋が呑気にそう呟いた。


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