探偵のオペラ【4】
「リハーサルはもう始まるのか?」
「あと少ししたら始まりますよ」
俺の言葉に愛梨がにこやかに答える。誘われて快諾した俺はともかく砂橋はさっさと帰りたいだろう。しかし、後輩が出演している劇のリハーサルはしっかりと見たい。
ポスターに記載されているあらすじくらいは確認するか、と受付に置いてあるポスターに目を向ける。
『名作「オペラ座の怪人」に影響された作品。主人公であるエマは小さい頃家が火事になり、顔に火傷を負う。彼女は自分の境遇や周りの人間を恨み、クルミ座に巣くう悪魔ととある契約をすることとなる』
これがあらすじだろう。確かに「オペラ座の怪人」とは少し違う。ポスターには「クルミ座の殺人」と書かれている。怪人と書いていないということはミステリーなのだろうか。それともただ殺人が起こるだけなのだろうか。
まぁ、それは劇を観れば分かることだろうから聞くという野暮なことはしないでおこう。
「ここにいるよりも先に史也さんに挨拶してきてもらったら?」
「あ、そうっすね!」
陽葵の助言に風斗は奥へと続いている暗幕を手で避けながら「こちらっす」と肩越しに振り返って俺と砂橋を手招きした。
「兄さんと弾正先輩は会ったことないと思うんすけど、兄さんに弾正先輩のこと話した時に先輩の小説のことは知ってるみたいでした」
「なるほど、今回のリハーサルは俺が小説家であるから招待したというのもあるのか」
「そうみたいっす。異文化交流?とかしたいとかなんとか言ってました」
自分で言っているものの言葉の意味などはあまり分かっていないようだ。
暗幕の奥は薄暗い観客席だった。パイプ椅子が横に十、縦に三列ほど並んでおり、一つ一つに色や柄の違う座布団が敷いてある。ここは場所や物を貸し出しているだけの劇場のため、固定された観客席がないのだろう。
昔ここを訪れた際にはパイプ椅子ではなく、幅の広い階段が四段ほどあり、そこに座布団が敷いてあり、観客が腰をおろしていた。披露する劇の形態によって観客席も変えられるのか一つの魅力だろう。
「思ったより狭いんだね」
砂橋がおおよそ三十しか座れない観客席を見回しながらそう言うと風斗は頭を掻いて、困ったように笑った。
「そうっすね。そこまで客入りがいいっていうわけじゃないっすけど、みんな、頑張ってるから劇は結構いいんすよ」
風斗は大学を卒業して一年目。確か、会社員にはならずにフリーターをしていると近況報告で言っていた気がする。元から就職せずにこの劇団に入るつもりだったのだろうか。
「風斗はなんの役で出るんだ?」
「ああ、俺はモブっすね」
「モブ?」
「クルミ座に所属してるモブっす。まぁ、モブにもいろいろあるんすよ。プリマドンナのお付きとか、支配人のおつきの人とか……。俺の特技、早着替えなんすよ!」
胸を張る風斗に砂橋が「それはいいね」とくすくすと笑った。からかっているわけではないのだろう。風斗は砂橋の言葉を素直に誉め言葉として受け止めた。