遺産相続パニック【20】
俺もお手玉の上達具合を砂橋に見せつけてやろうか、とお手玉を握りしめた時、廊下の方から何か重い箱を落としたような音と仲に入った物ががしゃがしゃと散らばるような音が聞こえた。
雛子の部屋からだ。
「おもちゃの音だ!」
雛子が立ち上がるのに続いて俺と砂橋も雛子の部屋へと向かった。ピンクのカーペットの真ん中には大輔が立ち、入り口には伊予が立っていた。
カーペットにはプラスチックのおもちゃ箱が転がっており、大量のおもちゃがカーペットにぶちまけられていた。先ほどの音はこのおもちゃがばらまかれた音だったのだろう。
「あー!ヒナのおもちゃ!」
床のおもちゃを指さして主張する雛子を大輔がぎろりと睨んだ。
「うるせぇな!そもそもこんなにおもちゃを買い与えて、親父はこいつを甘やかしすぎなんだよ!」
「ちょっと兄さん」
伊予が諫めようとするとその横を通り過ぎて、砂橋が部屋の中へと入るとカーペットの上にかがんだ。床にぶちまけられたトランプの箱を手に取り、プラスチックのおもちゃ箱を掴み、近くに引き寄せる。
「……中身が重くて持ち上げた時に取っ手が壊れちゃったのかな。まぁ、故意じゃないとしても謝るっていうのは大切だと思うんだけどね」
ちらりと足元から自分へ視線を投げかける砂橋を見て、大輔は顔をしかめた。大きな舌打ちをして、大輔は俺を押しのけて雛子の部屋を出て行ってしまった。
伊予はため息をつく。
「大輔兄さんは昔から自分の非を認めないのよね」
「暗証番号のヒントが見つからなくて苛立ってるのもあるんだろう。なんにせよ、自分で片づけないのはいただけないが」
雛子が砂橋に駆け寄る。
「私もお片付けする!」
「ありがとう、ヒナちゃん」
「どういたしまして!」
八歳の子供という存在に普段関わることがないから分からないが雛子はずいぶんしっかりとした子供だと思う。自分のおもちゃが床にぶちまけられていて、怒りも泣きもしない。いや、子供も大人も関係なく、自分の物を荒らされて謝りもしない相手に対しては怒ってしまうだろう。
「雛子はしっかりしてるんだな」
「んー。ヒナね。笑ってる方が好きなの!ヒナが笑ってるとおじいちゃんもひとみちゃんも笑うの!」
にこっと雛子が笑う。笑顔を作るのが日常的なのだろう。ただ無理やり笑っているわけでもなさそうで少し安心した。
「すごいね。でも、泣きたくなることってない?」
砂橋の言葉に雛子がきょとんと目を丸くして、おもちゃを片付ける手を止めた。
「えっとね」
砂橋は気にせずにおもちゃ箱へとおもちゃを片付ける。俺も手伝おうとかがんだ。いつの間にか入口から伊予はいなくなっていた。
「悲しいことがあっても、明日はきっと楽しいことがあるってお父さんが言ってたから」
「……それは、いい言葉だねぇ」
砂橋はにこにこと笑うと雛子の頭を撫でた。
「なんで、あのおじちゃん、ごめんねできないんだろう?」
「んー、なんでだろうね」
「大人になってごめんねが恥ずかしくて言えなくなったんだろうな」
人生ゲームの中身が無残にも箱から出てしまっていたので、おもちゃのお札やコマをちまちまと集めながら箱の中に戻す。
「だんちゃんも、ごめんね、はずかしい?」
「俺は……どうだろうな。でも、悪いことをしたら、謝るべきだと思う」
やった事の大小に関係なく、謝罪の言葉は必要だ。例え、それまでの関係が修復できなくとも。例え、それが自己満足だとしても。謝罪しなければならないと少しでも思うのであれば。
「だんちゃん、あやまれてえらい!」
砂橋が思わずと言ったようにぷっと噴き出した。
「だんちゃん、謝れて偉いって……っ」
笑いがこらえきれていない。腹いせに今度砂橋が買った菓子やプリンを勝手に食べて謝らないでやろうかとさえ思う。
「でも、大輔さんが苛立ってるのも事実だよねぇ。どれだけ探しても金庫の暗証番号は分からない。でも、期限は刻々と迫っている。もうすぐ夕飯の時間だし」
俺は手首の時計を見る。六時前。老人と子供が住んでいたこの田舎の家庭では、確かにもうそろそろ夕飯の時間だろう。
「夕飯まで出してもらうのも悪い気がするな……」
「でも、依頼の内容からして、僕らはここを離れられないんだし、夕飯もらうしかなくない?」
「それはそうだが……」
ふと雛子を見るとこちらをじっと見ていた。あれは期待している目だ。遊び相手が長くいてくれることを望んでいるのだろう。
「ごはん、なんだろうね!」
「……なんだろうな」
夕飯も食べることになりそうだ。




