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遺産相続パニック【16】


「ほんとはね、もっと前にケーキ食べれたの!」


 雛子が砂橋の袖をくいくいと引っ張って、嬉しそうに言う。


「もっと前に?」


 砂橋が首を傾げた。雛子はどう伝えればいいのか分からないらしく「えっとね」「んっとね」と何度か首を右へ左へと傾げていた。


「先月、旦那様と一緒に誕生日を祝う予定だったんですよ。雛子ちゃんも旦那様も五月産まれなので一緒に誕生日祝いをしようと……」


 スケジュール帳のことを思い出す。朗氏はケーキを五月十六日に受け取りに行く予定だった。しかし、その日が彼の命日となったのだ。坂口は少し暗い顔をしたが、すぐに笑顔に戻り、ホールのケーキを八等分に切った。


「皿、出しますよ」

「ああ、弾正さん。ありがとうございます。そこの棚にある皿を八枚ほどお願いします」


 分かりました、と俺は棚から皿を八枚取り出して、ケーキの横に皿を並べ始めた。


「じゃあ、僕は他の人呼んできますね」

「ええ、お願いします。さすがに休憩を挟まないと辛いと思いますから……」


 砂橋は居間へと入っていき、小春に声をかけていた。小春と何度かやり取りをすると、二人そろってダイニングへやってきた。


「わぁ、ケーキじゃん。美味しそう」


 小春は切り分けられたケーキを見て、口元に手を当てて嬉しそうに笑った。砂橋は廊下の奥へと行き、書斎と雛子の部屋にいる伊予と大輔を呼びに行った。まずは伊予から呼んで、伊予と一緒に大輔を呼ぶつもりだろう。砂橋が一人で大輔を呼んだところで怒鳴られる未来しか見えない。


 しばらくして伊予と砂橋が二人だけダイニングにやってきた。


「金山さんもケーキどうですかぁ~?」


 砂橋の呼びかけに本に没頭していた金山がやっと顔をあげた。


「ケーキ……ぜひ、いただきます」


 ずっと本を読んでいて疲れたのか、金山は両手をあげて体を伸ばす。


「紅茶も淹れましょう」


 電気ポットに水をいれて、スイッチをいれた坂口は戸棚からティーバックを取り出した。


「ヒナはオレンジジュース!」

「じゃあ、僕もオレンジジュースにしようかな」


 雛子と砂橋はオレンジジュースを注文し、それ以外の人間は紅茶を飲むことになった。


「それにしても、父さんはいったいどうしてこんな遺言を残したのかしら……」


 重いため息を吐いた伊予は皿に分けられたケーキを居間のテーブルへと運び始めていた。それに続いて小春もケーキを運ぶ。ケーキ休憩に喜びを見せていたが、小春も伊予も、表情に疲労が滲み出ていた。


「金山さん、どうして父さんがこんな遺言にしたのか、教えてもらってもいいかしら?」

「そうですね……。金庫を開けられた時には教えます」


 金山は困ったように眉を下げて笑った。それ以上何も話してもらえないと分かったのか伊予もそれ以上聞くことはなかった。


 これを機に俺も質問をしようと口を開いた。


賢吾けんごって誰ですか?」


 俺の言葉にケーキを運んでいた伊予と小春の動きが止まった。それだけではなく、湯が沸いたポットに手を伸ばしていた坂口の手も止まった。雛子はそんな大人たちの様子をきょとんとして眺めていた。


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