遺産相続パニック【11】
「あ、弾正。何か話は聞けた?」
相変わらずあやとりの練習台をさせられていると思っていたが、現在ピンクのカーペットの上でお互い向き合った雛子と砂橋の間にはジェンガが積まれていた。
部屋の中には二段ベッドの上の段の高さにあるベッドとその下にぴったりと収まる勉強机と棚があった。棚には絵本がいくつか。そして、プラスチックのおもちゃ箱にはたくさんのおもちゃが入っていた。ぱっと見ただけでもおもちゃ箱の中には人生ゲームの箱、トランプ、木製パズル、お手玉。多くのおもちゃがある。それだけでも積みあがった表面だけで、その下にはもっとたくさんのおもちゃがあるのだろう。ゲーム機はないが、それでもおもちゃがこれだけあれば退屈しないだろう。
ジェンガは雛子の番らしく、もういくつか歯抜けの状態のジェンガは一つ間違えれば崩れてしまう。彼女はそれを崩さないためにはどうすればいいかと真剣に目を細めた長考を開始していた。
「ああ。少しだが、彼女がここに来たのは三年前で。朗氏がいきなり連れてきて「うちの子だ」と言い出したらしい。母親のことは誰も聞かされてないようだ」
「ふーん」
やっとジェンガのピースを抜いた雛子はそれをかたつむりの速度で塔の上へとのせようとしていた。この場で雛子に話しかけるのはNGだろう。
「今日一日、遊んでるだけか?」
「雛子ちゃんがそうしたいなら」
もうすでに依頼の前料金は払われている。
朗氏は自分の死期を分かっていたのか、生前に依頼をすると前料金を払っていた。だから、依頼はこなさなければいけないのだが、何をすれば正解なのか。
望まれない限りは手の出しようがない。
「すなちゃんたちはヒナの友達になってくれる?」
やっとジェンガを塔の上に置いた雛子が砂橋と俺を見て問う。十歳以上も離れた友達を持つことになるとは思わなかった。砂橋はともかく俺と遊んでいても面白くないと思うのだが。自分を鏡で見て思うが、俺はたいていの子供に嫌われると思う。
「いいよ。僕も遊ぶの好きだから」
砂橋もこういう類のおもちゃは好きだろう。砂橋も将棋やチェス、俺が名前を聞いたこともないマイナーなテーブルゲームなどに俺をよくつき合わせている。
「でも弾正はなぁ」
「遊ぶの好きじゃないの?」
「僕よりゲーム弱いよ」
「勝負の結果は五分五分だろ」
ここぞとばかりに砂橋が雛子に嘘を吹き込むので、俺はすぐに訂正することにした。
「ゲーム上手じゃなくてもだいじょうぶだよ!いっしょに遊ぼ!」
雛子はそう言うとプラスチックのおもちゃ箱を開いて、人生ゲームを開き始めた。
「人生ゲームなんて懐かしいなぁ。はい。これ、資金」
ボードを広げる雛子の隣で砂橋がおもちゃの一万円札を何枚か俺に渡してきた。どうやら本当に人生ゲームをやるらしい。この場にいてもやることはないので、俺も人生ゲームのボードを囲むようにカーペットに腰を下ろした。