遺産相続パニック【8】
金庫の部屋へと行くと三つ横に並んだ座布団が前の列作られていて、後ろに四つ座布団が並んでいた。もうすでに前の列に大輔、伊予、小春の三人が座っていたので俺と砂橋、雛子と坂口は後ろの列に座った。
金山は金庫の前に座り、こちらの全員の顔を眺めてから黒革の鞄から白い封筒を取り出した。糊付けされた封筒を開け、中身を取り出して、彼は手紙を広げる。
「これは朗氏さんの遺言書です」
ごくりと誰かが喉を鳴らした。雛子はきょろきょろと部屋の中を見回していた。遺言が長ければ退屈してしまうかもしれない。
「こちらにある金庫を今日、六月三日のうちに開けることができなければ、遺産は全て慈善団体に寄付する」
「……は?」
これを漏らしたのは大輔だったが、それはその場にいた全員の総意だった。金山はそれだけ読むと手紙を三つ折りに戻して白い封筒の中にしまった。
「か、金山さん?本当に遺言書の内容ってそれだけなの?」
伊予が困惑しながらも尋ねると金山は慎重にこくりと頷いた。
金山の奥にある立方体の黒い金庫。それを今日中に開けることができなければ、月影家の人間が相続できる人間がいたとしても、その全てが寄付される。つまり、誰もその遺産を手に入れることができなくなる。
「誰か金庫の番号聞いてたりしないのか?」
大輔が伊予と小春を見るが伊予は首を横に振り、小春は「私も教えてもらってない」と答えた。その後、前の列の三人が後ろを振り返り、坂口を見つめたが彼女も口を横に振った。
「ヒントとかはないんですか?」
小春が手をあげて、質問するも金山は首を横に振った。
ヒントもなしに、金庫を開ける。
何桁かも分からず、ヒントもない。しかし、スマホのパスワードとは違い、失敗してもしばらく入力できないというリスクはない。
「もしかしたら、この家の中に金庫の番号のヒントがあるかもしれないわね」
伊予がぽつりとそう言うと大輔が立ちあがった。
「それなら早く探さないと……」
それに続いて小春も伊予も立ち上がって、何か思い当たるところがあるのか三人とも廊下に出ると玄関とは反対方向へと早歩きで去って行ってしまった。




