表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/469

アイドル危機一髪【25】


「ついたぞ」

「ちょうどよかった。ほら、見てよ。ストーカーだ」


 押し付けられたタブレットを見ると、動画は黒いフードを被った人物が画面の右端に映っているところで止まっていた。再生ボタンを押してみる。


「……顔が一瞬だけ見えたな」

「よかったね、フードのせいで顔が見えないってならなくて」


「事務所の人間か?」

「違うよ」


 砂橋が断言するのならば間違いないだろう。こいつならば、社員名簿を顔写真つきで拝借することなどお手の物だろう。


「竹林でもないな」

「早送りしてみてよ」


 俺の言葉を無視した砂橋は横から手を出してきて、早送りをタップする。扉の前に立った人間はごろごろと黒いパーカーのポケットを漁り、取り出した鍵を差し込むと扉の奥へと入っていってしまった。それから動画の左下に出ている時間を眺めるとそれから約三十分後に男はまた扉を出て鍵をかけた。それから今の時間に数字が追い付くまで、奥の部屋の住民らしき女性が家を出て、会社員らしきスーツの男が階段をあがり、奥へと通り過ぎただけだった。


「安全は分かったわけだし、僕らは汚れ仕事をしよう」


 砂橋は桃実に連絡して、この前と同じように大家に鍵を開けてもらえるように頼んだ。その間に近所の店にゴミ袋とゴム手袋とマスク、その他清掃用品を買いに行った。


「結局、俺に任せるのか」


 ゴム手袋をはめたにも関わらず、砂橋は部屋に入るとポストの中は見ず、そのまま靴を脱いで部屋の中へと入っていった。荒らされているかどうかの確認だろう。俺はゴム手袋を通して伝わる感触に顔をしかめながらも、なるべく手の中のものを見ないように視線をずらしながら、ゴミ袋の中にそれを移動させていった。


「くっさいねぇ」


 砂橋は玄関へと戻ってくるなり、そう言った。


「手伝ってほしいんだが?」

「狭いでしょ。やだよ。一人でやった方が効率的じゃん」


 なんと言っていいのか。


「でも、これで分かったね」

「なにがだ?」


 砂橋はビニール袋から消毒用のスプレーを取り出していた。この臭いが完全に取れるには時間がかかるだろう。


「監視カメラの映像で、男が映っていたのは午後五時。その時、桃実と他のメンバーや事務所の人はここに来ることはできない。事務所で関係のある人間はその時間にここに来ることはできない」


「じゃあ、ストーカーは事務所の人間ではないんだな」

「顔も見えたけど、今までマークしてなかった第三者だね」


 ゴミ袋を床に置いて、濡らした雑巾でポスト内を拭いていく。


「ファンの人間か?」

「そうかもね」


 砂橋は何か考え込んでいるようだった。


 俺は最後に渇いた雑巾でポストを拭き、俺は消臭スプレーを周りに吹きかけた。


「明日、握手会があるからもしかしたら会えるかもね。社長に頼んで見れる位置から見てよっと」


 そういえば、今日が砂橋に連れまわされる四日間の最終日だ。明日、砂橋は一人で行動するつもりなんだろうか。


「握手会で犯人を見つけたら、個別に話を聞かないとね」


 猫の死骸をポストの中に平気で入れるような人間と一対一で会うつもりだろうか。


「……砂橋」

「なに?」


「明日も予定を空けられるぞ」

「やった~。じゃあ、握手会でもよろしくね」


 砂橋はにっと笑うとゴム手袋で俺の背中を叩いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ