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探偵のいない推理旅行【8】


 数年前。


 教授に恋文が届いて、それを砂橋と一緒に解決した俺は授業で一緒に発表をした砂橋と話す機会が多くなっていた。その頃には、宮岸も交えて三人で昼飯を食べることもあった。


 違和感を覚えたのは、母と会うために母が入院している精神病院へと向かった時だった。


 母に渡す花束を義務感で選んでいて、予定していた時間より遅れてしてしまった俺が精神病院に向かうと、こぢんまりとした人里離れたその病院の玄関から砂橋が出てくるのが見えた。


 砂橋は俺の存在に気づいていないようだったが、なにか見てはいけないものを見たような気がして、俺は木の陰へと身を隠すことにした。


 砂橋の姿が見えなくなった後に精神病院へと入ると、精神状態がよくないので面会はできなくなったと看護師に言われ、俺は花束を看護師に託して帰ることとなった。


「最近、なにか悩んでることでもあるのか?」


 砂橋が何故、母がいる病院にいたのか、そして、母の精神状態が悪化したことは砂橋と関係があるのか、気になることはあったが、胸の内の疑問を砂橋にそのままぶつけることができずにいると、俺の様子に宮岸がいち早く気づいた。


「……ああ、悩んでるな。お前に恋愛小説を書けと言われて」


 しかし、砂橋もいる昼飯の場で宮岸に相談する気にもなれず、俺はいつも通りの返しをした。その返答に砂橋が噴き出して笑う。


「なに、宮岸くん。松永くんに恋愛小説を書いてほしいなんて頼んだの?」


「だって、こいつが書く恋愛小説、読んでみたいと思うだろ? 俺が思うにこいつが恋愛を書いたら、きっと告白もできずに不器用に相手に接した結果、いつの間にか相手に恋人ができて振られるみたいな恋愛を書くと思うんだよな!」


「お前は俺をなんだと思ってるんだ」


 宮岸にも恋愛経験はないはずなのに、なぜか付き合った人間がいないということをいじられる。今度、仕返しをしてやろうと思いながら、学食と一緒に持ってきたお茶をすすっていると砂橋が考える素振りをしながら、俺を見る。


「松永くん。浮気系書けそう」

「は?」


「ほら、奥さんがいるのに、他の女の人と子供を作るとか」

「……悪いが、そういう類の話は反吐が出るほど嫌いだ」


「あ、そうなの?」


 何故か意外そうな反応をする砂橋に不信感が募る。


 精神病院の母のことや、砂橋の細かい言動が気になると、どんどん砂橋の行動の機微が気になっていったが、結局俺は宮岸に相談することはできなかった。


 砂橋本人に直接疑問をぶつけようにもどう話を切り出していいか分からないでいると、ある日、砂橋が学食で席を外している時に、開いたままの砂橋の鞄からいきなり大きな着信音が流れて、周りの注目を集めた。


 鳴りやまない着信音と帰ってこない鞄の持ち主と周囲の視線に慌てて、心の中で砂橋に謝りつつ、砂橋の鞄を開いて、その奥底にあったスマホを発見した時、俺は固まった。


 しかし、固まったのも一瞬のことで、その横にあったスタンガンとサバイバルナイフらしきものを見なかったことにして、俺はスマホをマナーモードにして、砂橋の鞄を元通りにした。


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