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アイドル危機一髪【22】


「笹川さんから見て砂橋さんってどんな人なんですか?」


 助手席に座る桃実からそう聞かれて、ハンドルを握ったまま人差し指でとんとんと叩きながら考える。


「どんな人……ですか?」


 人通りの多い交差点。Xの形になって人が横断する様を眺めながら、ちらりと横目で彼女を見ると、視線が合わさって、彼女はふいと視線を信号機の方へと向けた。


「砂橋さんからメールで指示はくるんですけど……私、砂橋さんとは依頼の時とインタビューの時に会っただけですから、どんな人なんだろうなぁって」


「正直、俺にも分かりませんよ」


 砂橋さんが一つの言葉で表せる人間だったら、俺は今こうして探偵事務所に勤めていることはなかっただろう。


 自由気ままとか、明るいとか、その表面の一端を表す言葉はあっても、これをもって砂橋さんだという言葉には出会ったことがない。俺の語彙力の問題かもしれないが。


「でも、的確に指示をくれるし、私の報告にもちゃんと返信してくれるいい人だってことは分かります」


 少なくとも。


 砂橋さんはいい人ではないだろう。


「頼りになる人ですよ、砂橋さんは」


 俺はそう返すことにした。


「そういえば、今日は何を指示されたんですか?」

「スマホを録画中にしたまま、ロッカーの奥に立てかけて誰が開けたか分かるようにって」


 それと、と彼女は言葉を紡ぎながら鞄の中に手を突っ込んでごそごそと何かを探す。家にあった物を持ってきたのか、引き出した手にはピンクの猫のがま口が握られていた。その中の小銭をかき分けて、彼女の指先には紙の切れ端のような物が握られていた。


「……それは、付箋ですか?」


「はい。今日はゴミじゃなくて、この付箋が捨てられてて……。しかも落ちてるって感じじゃなくて、ロッカーの床に貼られてるって感じで」


「何か書いてあるんですか?」


「数字が……えっと、2、7、7、5、5、5、3、3って書かれてます」


 八桁だから電話番号ではないだろう。

 いや、そもそも意味のある数字なのだろうか。


「とりあえず、それも砂橋さんに報告しましょう。スマホの録画は確認しましたか?」

「いえ……まだです」


 桃実は俯いた。


 それもそうか。事務所の人間、もしくはフルーツフィールドの仲間が映っている可能性もあるのだ。


「分かりました。俺と砂橋さんで確認しますね。誰か分かったら桃実さんは知りたいですか?」

「……いいえ。でも、なんでそんなことをしたのかだけ知りたいです」


 罪を憎んで人を憎まず、か。


 桃実さんの方こそ、いい人と言うんじゃないだろうか。


 少なくとも、探偵事務所の人間に「いい人」はいない。


 しばらく車を走らせて、途中でコンビニに寄って、缶コーヒーを買った。桃実はサラダの詰め合わせと緑色のスムージーを買っていた。


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