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探偵のいない推理旅行【5】


 宮岸は俺の車に乗り込むにあたって、コンビニで俺の飲み物を買ってくれた。助手席に乗るのが砂橋だったら、そんなことはしてくれない。


「砂橋にだいたいのことは聞いたが、牧野の村で出会った二人とはその後会ったのか?」

「まだだな」


 会うと口約束はしているのだが、会っていない。相手はもう俺と砂橋のことなど忘れているのかもしれないから今更連絡してもいいものかと悩んでしまう。


「それにしても、お前らって本当にいっつも一緒に行動してるんだな。大学一年の時はまだ出会ってもなかったのに、お熱いことで」

「それ、砂橋の前で言ったら殺されるからな」


 ケラケラと笑う宮岸を今は運転中のため、殴ることができない。砂橋はたいていの相手には手を出したり、怒りを見せることはないが、俺や俺達の事情を知っている数少ない人間の宮岸に対しては手を出す。しかも、脛や鳩尾を確実に狙う。


「砂橋の前では控えてるさ。俺はお前らと違って、命は惜しいし」

「失礼な。俺達だって……俺だって、命は惜しい」


 砂橋は別に、命が惜しいとは思ってもいないだろう。宮岸は肩を竦めた。


「いやいや、お前らみたいな頭のネジが外れた奴らは、命なんて惜しくないだろ」


 俺が完全に否定したのにしつこくも宮岸は言葉を繰り返した。頭のネジが外れているのは砂橋の方で、俺はまともな人間だ。


「弾正、お前、まともな人間ぶるのもいい加減にしろよ~。まぁ、お前も砂橋と一緒だって知ってるのは俺ぐらいだろうけど」

「お前ぐらいだろうな。あんなことがあったのに、俺達との付き合いを続けてるのは」


 いくらイカレていると言われたところで俺が完全にこいつのことを突き放せないのは、こいつ自身が俺や砂橋のことを友人だと心の底から純粋に言ってくれるからだろう。


 砂橋もそれは思っているようで、いまだに宮岸から遊びの誘いがあると渋々ながらも俺と一緒に参戦する。それも一年に二度あればいいほどだが。


「だって、お前らいきなりボロボロずぶ濡れの状態で俺の家にやってきたと思ったら、話を聞いてくれって言い出して、お互いの身の上話を話したと思ったら、砂橋は「こいつ殺していいと思うよね⁉」って聞いてくるし、お前はお前で「俺は書きたい小説を書き終わるまで死ねないんだが、どうしたらいい⁉」って聞いてくるから、俺はお前らが雷直撃して気でも狂ったかと思ったぜ」


 恥ずかしい。


 数年前の出来事だが、今更口にされると恥ずかしいものがある。ずぶ濡れになりながらも、一人暮らしをしている宮岸のアパートを訪ねたのが鮮明に思い出される。


 俺と砂橋がアパートに招き入れられて、宮岸に話す暇も与えずに一通り話をし終わったところ、宮岸は深く頷いてから、やがて一言「お前ら二人とも風呂に入れ」と言ってきたのだ。


 本当に宮岸は偉大だと思う。


 口にしたら、調子に乗ると思うから言わないが。


「風呂に入れって言われた砂橋が渋ったから……無理やり風呂に放り込もうとして、女だって分かった瞬間、お前、土下座して「殺してくれ」とか騒ぎ出したから本当に困ったよ」


 本当にもうやめてくれ。口にしないでくれと思いつつも、懐かしい話をする宮岸を俺は止めなかった。

 そうとうな迷惑をかけたと思うが、友達でいてくれているこいつには感謝している。


 ふと、宮岸がじっと俺のことを見た。


「お前たち、知ってたか? あの翌日、俺はアパートの周りの部屋にうるさくしてごめんなさいって買った菓子折りを配ったこと」

「……すまなかった」


 俺は心の底から謝った。


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