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探偵のいない推理旅行【4】


 笹川に昼飯を奢って店を出ると俺から連絡するよりも先に宮岸からの着信があった。「もうお前の家の近くに来てるから落ち合おうぜ」と言われた時には驚いてしまったが、大学時代からお節介な彼のことだ。俺が砂橋の暇潰しに付き合わされていると気づけば、心配して駆けつけてくれるだろう。


 宮岸は俺と砂橋と違って、お人好しな人間なのだ。


「それで、どうしてお前は自分から俺に連絡してきたんだ?」


「もうそろそろかなって思ったんだよ。砂橋が今日の昼ぐらいに弾正が連絡をしてくるんじゃない? って言ってたからな」


「……」


 俺が探偵事務所に午前中に行って、笹川からコスプレショップを教えてもらって、昼飯を食べて、宮岸に連絡を取ろうとすることを砂橋に予想されていたらしい。


 宮岸を俺が済んでいるマンションの部屋に招き入れて、コーヒーを出す。


「今日は仕事はいいのか?」

「今は休みだ」

「何日間休みなんだ?」


 宮岸は俺の顔をじっと見ていたと思ったら、いきなりケラケラと笑い出した。


「お前と砂橋って、たまに俺に同じ質問するよな」

「……」


 喜べない。砂橋が聞いていたとしたら、きっと宮岸は砂橋に蹴りを食らっていただろう。俺は手を出さないが。


 それはそれとして、宮岸が休みだと聞いて俺は少しだけ期待を込めた視線を宮岸へと向けた。彼は俺が言いたいことが分かっていたようで笑いながら頷いた。


「三日間は休みだから付き合うぜ」

「よかった……」


 砂橋の暇潰しの内容自体は、頭を悩ませるようなものではないみたいだが、砂橋に振り回されることに関しては精神がこれでもかというほどすり減る。疲れて暇潰しを投げ出さないように、仲間は必要だ。


 もしかしたら、砂橋もそれを見越して宮岸を指名したのかもしれない。


「ところで砂橋から何か話をされていないか?」

「話か……お前たちがいつも通り、変なことに巻き込まれてる話しか聞いてないぞ?」


 午前中に出会った常盤は、砂橋から明確に俺への問題を教えてもらっていたようだが、宮岸は違うのかもしれない。


「問題を俺に出すように言われなかったのか?」


 宮岸は首を横に振る。

 砂橋が何をしたいのか分からない。


「じゃあ、なんの話をされたんだ?」

「お前たちが俺のことを誘わずに牧場に行った話なら聞いた」


 俺は頭を抱えた。


 常盤に愛知民族博物館の話をしたと思ったら、今度はまた別の場所の話を宮岸にしていたのか。


「謎解きゲームをしながら美味しいものを食べたい……分かる。めちゃくちゃ気持ちは分かる! なんで俺を連れて行かなかったんだよ!」

「譲ってもらったチケットが二枚しかなかったんだ」


 そもそも、宮岸は砂橋ほど謎解きゲームが得意ではない。むしろ、砂橋が三つほど謎を解いている間に、最初の謎を解いているような人間なので、砂橋が宮岸と一緒に謎解きゲームをすることはないだろう。むしろ、一緒に行動したと思ったら「遅いから置いてくね」と非情なことを言いかねない。


「自分の分のチケットも買うから俺も連れて行ってくれよ……」

「そこまで行きたかったのか」

「だって、牧場だろ? 乳製品だろ? チーズがあるってことじゃないか!」


 そういえば、宮岸はチーズが大好物だった。だから、砂橋もわざと宮岸に牧場に行ったと言ったのか。相変わらず性格が悪いことをする。そして、羨ましがる宮岸の面倒を俺にさせるとは。


「なぁ、いったいどこに行ったのか教えてくれよぉ……。お前ら二人がいなくても俺一人で行って、チーズを楽しむからさ~」

「砂橋から場所は聞いてないのか?」


 俺の袖を掴んで縋りついてくる宮岸のことを引きはがして、俺は自分のコーヒーをすすった。しくしくと涙が一切出ていないのに手で拭う仕草をしながらわざとらしく宮岸は頷いた。


「どこか教えてくれって同じように頼んだら、弾正に聞いてって言われたんだよ。それで? どこなんだよ、お前らが行ったところって」

「牧野の村っていう場所だ」


 もしかして、これが問題に対する答えだったりしないだろうな?


 俺はスマホで牧野の村について調べ始めた宮岸をよそに俺は砂橋に「牧野の村」とメールで送った。


「砂橋の言ってたラベンダーソフトっていうのはこの時季にはないんだな」

「まぁ、そうだろうな。あれはラベンダーの季節限定だろう」


 牧野の村で俺と砂橋が巻き込まれた件の話で一番宮岸が食いついたのは、やはり砂橋ではなく俺が探偵だと思われていたところだった。


「確かにお前と砂橋が探偵の話をしてたら、勘違いする奴も出てくると思うけど……お前が探偵かぁ~」


 小馬鹿にするように口元を手で隠して笑う宮岸の頭をはたいていると、思ったより早く砂橋から返信が来た。


『月影家の最年少の子』


 俺のスマホを覗き込んだ宮岸が「誰だ?」と問いかけてくる。


「遺産相続の件で故人が砂橋のことを呼んだ依頼で向かった家だな」


 月影(つきかげ)(ろう)()が亡くなり、その遺産の話し合いがあるということで、砂橋は朗氏と一緒に暮らしていた八歳の月影雛子(ひなこ)の面倒をみて、そのついでに遺産の謎を解決したのだ。


「七十四歳の月影朗氏には三人の子供がいて、全員成人していたんだが、月影家には八歳の月影雛子がいた。その存在を朗氏の三人の子達は隠し子だと思っていたんだ」


「思っていたってことは、本当は隠し子じゃなかったのか? もしかして、養子とか?」


 俺は首を横に振った。


 朗氏は遺言で「本日中に金庫を開けることができなければ、遺産は全て慈善団体に寄付する」と残していた。月影家の人間が金庫を開けるために金庫の番号になりそうなものを家の中で探している中、俺と砂橋は八歳の雛子の遊びに付き合っていた。


 金庫の番号に気づいたのは、家の中を引っ掻き回していた月影家の人間ではなく、雛子と遊んでいた砂橋だった。


 それもこれも金庫を開けるための数字が雛子の誕生日だったからだろう。


「砂橋が開けた金庫の中に入っていた書類で分かったんだが、月影朗氏が勘当した長男の娘が雛子だったんだ。長男夫婦は事故で亡くなったらしく、一人になった雛子を朗氏が引き取ったんだ」


「なるほどなぁ。ということは、砂橋はその月影雛子ちゃんに会いに行けって言いたいのか?」


「そういうことなんだろうな……」


 月影家の場所は把握している。電話番号などは知らないが、砂橋に頼まれ、月影家まで運転したのは他でもない俺だ。


 カーナビの履歴を辿れば、問題なく、月影家まで行けるだろう。雛子と雛子の面倒をみていた坂口瞳が今もあの家に住んでいればいいのだが。


「よし、じゃあ、俺も一緒に行ってやるぜ。乗りかかった泥船だしな!」

「おい、勝手に泥船にするな」

「お前と砂橋が関わってるなら、どう考えても泥船だろ」


 俺は宮岸の肩を強く叩いた。


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