夕暮れサロン殺人事件【42】
痛みであまり眠れなくて朝早くに起きてすぐに公衆電話の前に立った。僕の行動は眼鏡によって筒抜けなのですぐに受話器は市香ちゃんが手にとってくれた。
「ああ、市香ちゃん、どう?」
『はい。砂橋さんの考えている通りです。毒が検出されました』
「ありがとう。指紋は一人分?」
『はい。一人分です』
「ありがとう。それだけ分かれば大丈夫だよ」
僕は受話器を置いた。
もうここにいられるのも後少しかな。
「あ、砂橋さん……」
声が聞こえてきて、振り返ると奥野さんが朝食ののったワゴンを押していた。
「久しぶり、という程時間も経ってないけど……大丈夫? 落ち着いた?」
「は、はい。私の方は落ち着きました。でも、砂橋さんの方は……」
彼女は僕の脇腹を見る。真島先生に教えてもらったのだろう。僕は彼女を安心させるように微笑んだ。
「もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとうね。あ、そうだ。話があるから後でI棟に行きますね」
「話ですか?」
「うん、話」
「えっと……もしかして、出て行っちゃうとか、そういう話ですか?」
確かに毒殺事件の話が終わったら、僕はこの夕暮れサロンを出て行くつもりだけど。
「ああ、違うよ。みんなと仲良くするためにレクリエーションをしたいんだけど、そのためには看護師さん達や先生の意見が必要かなと思って」
不安そうな顔をしていた奥野さんが目を輝かせた。
「レクリエーション! いいですね! 仲良くなれば喧嘩もしませんからね」
仲良くなりすぎた結果、嫉妬して人のことを刺した人もいるけどね。
「分かりました! それなら後で真島先生と樋口さんと結城さんに話しておきますね」
あとは朝食を食べてゆっくり待つだけか。僕は奥野さんと別れて、自分の部屋へと戻った。この後のことを考えて、眼鏡を充電しておく。
「あとやることは少しだから頑張るぞー」
脇腹の痛みを深呼吸をして忘れることにして、僕は朝食を待つことにした。




