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夕暮れサロン殺人事件【37】


「ああ……痛い……」

「あまり動かないでくださいね……。傷口が開いてしまうと思うので」


 真島先生の顔は青ざめていた。別にナイフの傷程度ぐらい医師ならなんともないだろうに。僕は脇腹の部分がぱっくりと切れてしまっている血の滲んだ服を見た。今は入院患者が切るような青い服を着ている。


 刺された服は血が滲んでいて、もう着ることはできそうにない。せっかく宏隆さんが買ってくれたのにかわいそうに。


「砂橋さん、人払いしたのは、胸の傷が原因ですか?」

「わお、直球」


 僕は笑いそうになって、腹に痛みが走るのを感じて、笑うのをやめておいた。血のついた服を診察室のベッドから離れた位置にあるゴミ箱に投げる。縁にひっかかったから入ったも同然だろう。


「確かに胸とかその他諸々の怪我とか人に見られたくなかったけど……ていうか、こんな気持ち悪い怪我なんて見せられる方がかわいそうでしょ」


 僕の腹にはしっかりと包帯が巻かれている。もし、真島先生が一人で処置できなかったらどうしようと思っていたが、さすが医師。心配する必要はなかったみたいだ。


 真島先生は僕をじっと見ていたが、やがて小さく息を吐いた。


「気持ち悪いなんて思いませんよ。でも、その傷はいったい……」

「ああ、大塚さんを毒殺したのは古賀さんだよ」

「え」


 僕がいきなり話題を変えたからか、真島先生は目を見開いた。


「でも、前の二件の毒殺事件は古賀さんのせいじゃないらしいよ。本人から聞いたから間違いないし、古賀さんはもう毒殺事件は起こさないと思うから」

「そ、うですか……いや、え?」


 真島先生は説明を飲み込むのに時間がかかりそうだ。それよりも今は他のことだ。

 僕のことを刺したクソ野郎にはお灸を据えなくてはいけない。


「このまま、部屋に戻りますか?」


「そうですね。部屋に戻るまで付き添ってもらえます? ほら、僕、刺されましたし。また刺されるかもしれないですから」


「分かりました」


 そういえば、真島先生がこの夕暮れサロンに勤めている間に毒殺事件が三回、ナイフで刺される事件が一回も起こっている。


 彼が青ざめていたのは、もうさすがに解雇されるかもしれないと思っていたからかもしれない。彼が夕暮れサロンを辞めるかどうかは僕には関係のない話だけど、きっと夕暮れサロンが大好きな入居者達がずっと勤めている真島先生を辞めさせるようなことはしないだろう。


 彼がずっとここにいるのは、入居者達に信頼されているからだろうし。


「ああ、真島先生。鎮痛剤とかもらってもいいですか?」

「ああ、いいよ」


 真島先生は診察室の奥の扉のへと入ると、しばらくして戻ってきた。


「これはとりあえず今日の分ね」


 透明な袋に入った薬が二錠。真島先生はコップに入った水も持ってきてくれたので、僕はその場で薬を飲んだ。


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