夕暮れサロン殺人事件【20】
夕食はなんと仔羊のソテーだった。とても美味しかった。外食でもそんなものは食べたことがないのにと思いつつ、口の中でとろけていく肉に思わず目を瞑って一口を堪能していた。
大きなベッドも毛布も寝るためだけに用意された最高級のものでまるで雲の中に入り込んだかのようにすんなりと夢の中へと誘導された。
一日目は、結局、大久保さん、神宮司さん、勝俣さん、一ノ瀬さん、古賀さん、稲垣さんの六人としか出会えなかったが、この夕暮れサロンにいる僕以外の入居者は合計で十一人いる。あと五人。
「おはようございます、砂橋さん。ゆっくり眠れましたか?」
ノックをされて通した女性は看護師用の白い制服を着ていた。胸元のプレートには結城朱莉と書かれていて、その上にひらがなで「ゆうきあかり」と書かれている。
彼女は昨日の午後七時に、僕の部屋に仔羊のソテーを持ってきてくれた人だ。
「うん、ゆっくり眠れました。雲の中にいるみたいでしたよ」
「ふふ、それはよかったです。最初は緊張で眠れない人もいるみたいなので……。どうですか? 他の入居者の方とは」
「昨日はカフェスペースにいた人達とトランプをしました」
「砂橋さんなら、すぐに皆さんと打ち解けそうですね」
彼女はワゴンで運んできたお盆を僕の部屋のテーブルの上にのせた。銀色のお盆に高級そうなキレイな食器とは、細部まで至れり尽くせりの場所だ。
宏隆さんに頼み込んで、余生をここで過ごすのもいいかもしれない。
いや、まぁ、毒殺されるか怯えながら余生を過ごすのも御免だが。
「砂橋さんは今日午後一時から診察が入っているので時間になったらⅠ棟一階の診察室の前の椅子に座っていてくださいね」
「分かりました」
僕は病気ではないので診察などはいらないのだが、ホスピスに来て一度も診察をしないのでは疑われる可能性もあるため、宏隆さんが医者にだけ僕のことを話しているのだ。
僕が医者の真島圭先生について宏隆さんから聞いていることは一つ。
彼は金の亡者だということだ。