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夕暮れサロン殺人事件【9】


 車を走らせている間、砂橋は終始無言だった。何を考えているのかは分からないが、きっとこの前羽田から渡された夕暮れサロンに関する資料を思い出しているのだろう。


 仕事熱心なのはいいことだと思いながら、俺はトランクに詰め込んでいた本とは別に鞄にいれていた文庫本を取り出した。たまには近代小説を読むのもいいだろうと思って買っておいたのだ。最近は昔売られていた小説の表紙のデザインを今風に変えて売るのが流行りになっているのか、少し洒落たデザインの近代小説を読むことができる。


 ふと、砂橋がこちらを見た。


「そういえば、市香ちゃんがくれたスイーツビュッフェの券だけどさ。あれ、期限が今月中なんだよね。十一月中に終わらせないとね」


「……資料を頭の中でおさらいしていたんじゃないのか」


「え、なんのこと?」


 どうやら、仕事のことを考えていたわけではないようだ。


 この会話を聞いている勝俣の心境を考えると胸が痛くなってしまう。しかし、それも今更だ。不安になっていようが、依頼を受けたのは砂橋なのだから。


 解決しようが、どうなろうが、ここから先は泥船だ。


 誰を乗せるかは分からない沈む船。


「荷物を別荘に下ろしたらそのまま俺と砂橋と勝俣は夕暮れサロンに行く。帰り道は見張られる可能性もあるから別荘には寄らないが、それでいいな?」


「うん。大丈夫。それにしてもトランクによくあれだけ本を詰め込んだよね。弾正、いつまで別荘にいるつもりなの?」


「……考えてなかった」


 締め切りがある仕事は二つだが、何日間滞在するかは決まっていなかったため、とりあえず現在ある仕事の資料を全部詰め込んだ気がする。たぶん、締め切りが近くないものも合わせて詰め込んだから量が多いのだろう。


「でもまぁ、資料がたくさんあるからって仕事がたくさんできるわけじゃないしね」


「余計な心配だな」


「まぁ、せいぜい締め切りに間に合うように頑張ってよ」


 ふと、俺は隣の席で窓枠に肘をついたまま外を眺めている砂橋を見た。


 砂橋がこれから行く場所は、毒殺事件があった場所だ。


「お前も危険なことはするなよ」


 俺の言葉にやっと砂橋は振り返り、目を丸くしてから、すっと細めた。そして、自嘲気味に笑う。


「心配したところで無駄だよ」


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