B級ホラー幽霊事件【24】
打ち上げの集合場所である焼肉屋の前の駐車場で待っていたのは映像研究サークルのメンバー七人。宮岸と一緒に見た映像の中にいた人物たちだった。
「おお、長谷~! お前、映像で言ってた怖がりな先輩って俺のことか~!」
宮岸がすぐに金の短髪の長谷の首に手を回して、握った拳を長谷の脳天にぐりぐりと押し付け始めた。
「今日はお邪魔させてもらってごめんね」
「宮岸の友人だ。俺は弾正。こいつは砂橋」
「あ、知ってます。去年と一昨年の学園祭の時に宮岸先輩に強制連行されてショートフィルムを見に来てくれましたよね?」
石間が思い出したように手をぽんと打って、俺の方を見た。一昨年は俺だけ連行されたが、去年は砂橋も一緒に連行された。その認識に間違いはない。
「君たちの夏の合宿の映像見たよ~。君が幽霊役だったんだよね。メイクもすごかったよ」
「はは……褒めてもらえてうれしいです。ね、美幸」
「うん! 私がメイクしたんですよ、あれ!」
石間は照れているのか髪の先を指で弄びながら、近くにいた美幸を呼んだ。
「メイクもすごかったけど、料理もおいしそうだったね~」
本題はいつになったら切り出すのだろうか。
一番、気になっていることを誰も話さないのが少しだけむず痒い。
夜に廃洋館に出てきた人物は誰だったのか。砂橋もだが、映像研究サークルの人間が気づいていないわけがない。
「石間百さんと、美幸さんと……宮岸くんに絡まれてる長谷部長と」
「俺は新田」
「明里で~す」
砂橋がそれぞれを指さしで確認していると新田が明里の肩に自分の腕を回したまま近づいてきた。
「うんうん。で、透くんと由紀子ちゃんだね」
砂橋は全員の名前を確認して、満足そうだ。
全員、映像の時とは服が変わっているが、髪型や見た目にそれほどの違いはない。
「ねぇ、映像の時、夜に三人以外の人間は別荘を出ていないんだよね?」
唐突な質問に映像研究サークルの人間が顔を見合わせる。砂橋の疑問に答えたのは宮岸の拘束から解放された長谷だった。
「はい。あの後も聞きましたが、夜中に別荘から出た人はいません。一年生の二人はお喋りをしていて、明里はダイニングで寝ていて、百は二階で寝てました」
「お風呂に入った順番は?」
「私が一番最初よ」
石間が小さく手を挙げる。酒を飲んだ後、すぐ風呂に入ったようだ。
「その次は私で、私の後に透くんが」
次に手をあげたのは由紀子だった。その後は誰も手を挙げなかったが、洋館に肝試しをしに行った三人が帰った後に明里が入ったと証言した。
「新田くん。君のお父さんには聞いたかな? あの山には普段人は入ってくる?」
「滅多に人は入ってこないらしいっすよ。獣もあんまりいないし、わざわざ夏場に入って採れるものもないから、人なんかいないだろうって。それに別荘に行くまでに塗装された道路が一本。別荘から廃洋館には少し広い獣道が一本だから、誰かが廃洋館に行くのなら、必ず別荘の前を通って、廃洋館に行くことになるって」
それならば、映像で出てきた人形の幽霊が人間だとすると、別荘の前を通ったことになる。あの真っ暗な中、懐中電灯もなしに歩くのは無理だろう。
「なるほどねぇ。じゃあ、廃洋館に出てきた人形の幽霊の正体は、君たちの中にいるってわけだ」
砂橋は笑顔でそう言うと新田と長谷と美幸を指さす。
「君たちは映像に映っていたから除外するとして、人形の幽霊を見た時に別荘にいたと言っている人間の中で誰かが嘘をついている。ねぇ、三人とも。肝試しに行く前に別荘に残った誰かに肝試しに行くことは話した?」
砂橋の視線を受けて、新田も長谷も美幸も首を横に振る。
「じゃあ、明里さん。ずっと寝てた? 三人が出て行く音は聞こえた?」
「んー、一応、聞こえたかな。床にそのまま寝てたから足音はよく聞こえたし、玄関のホールの扉が開く音って結構大きいからさ。開いた時とかはちょっと目が覚めたよ」
「だったら、三人が出て行って、帰ってくるまで誰か来た?」
明里は首を横に振った。