B級ホラー幽霊事件【23】
『もう荷物の忘れ物はない?』
『ないです。食材も残ったものはクーラーボックスの中に入れました。本当にもらっていいんですか?』
『いいのいいの。由紀子ちゃんも透くんも一人暮らしでしょ? 食費は浮かせた方がいいでしょう?』
ダイニングのテーブルから回されているカメラに一年二人と美幸が映る。どうやら、帰る準備をしているようだった。一泊二日の滞在だったとはいえ、こうしてみると色々なことが詰まっていて、一泊の気分ではなくなるだろう。
玄関ホールの扉を開けて、渋い顔をしている新田が顔を出す。
『ごめん、哲矢。手を貸してもらって……』
『いや……別にいいっす……』
カメラの傍までやってきた新田に長谷が申し訳なさそうに声をかけるが、新田の声は少しそっけない。
『運転は新田?』
『いや、俺はちょっと……』
『あ、じゃあ、私が運転しますよ』
気分が悪いのか運転を渋る新田の代わりにと由紀子が手をあげた。
『普段から車を運転してるので大丈夫です』
『それじゃあ、お願いねぇ』
人数分の荷物を大きな車の後ろに詰め込んで、映像研究サークルのメンバー七人が乗り込むとゆっくりと車は発進した。
長谷の持つカメラは別荘の奥の道をしばらく映すと映像が終わり、DVDデッキの駆動音が停止した。
「どう思う? あの人形の幽霊」
「人間だと思う」
「人間だな」
俺の投げかけた疑問に砂橋と宮岸が間髪入れずに答える。
やはり考えていたことは一緒だったか。
それにしても、ショートフィルム以外にも人形の幽霊が出てくるとは思わなかった。
しかし、人形の幽霊だけの部分だけピックアップしたかったのなら、前半のシーンはカットするべきではないだろうか。
「でも、分からないのは、どうしてあそこに人間がいたのかだな。いや、よく考えると怖ぇな! あんな真夜中に誰だか知らない人間が勝手に廃洋館にいたんだぜ!」
「まぁ、私有地だとしても肝試しのためなら敷地に入って撮影する人もいることだし、誰がいても不思議ではないよね」
それにしたって、ゴシックロリータを思わせる衣装に廃洋館の中にあった人形とは、凝ったことをするものだ。悪ふざけでそこまでするだろうか。
「じゃあ、俺はこれから後輩たちと打ち上げに行くよ。大学の近くのコンビニの焼肉屋で待ち合わせをしてるんだ」
「僕たちも行っていい?」
「え」
砂橋の言葉に思わず俺が間抜けな声を出す。
さっきは興味がなさそうにしていたくせにどうしていきなり焼肉に行くなんて言い出したのか。砂橋の本心は分からないまま、宮岸が嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「ああ、いいぜ! お前たちのことは後輩にも話してるからな。二人加わったところで大丈夫だろ」
いきなり人数を変更して店側も迷惑だったりしないだろうか。
「ところで宮岸くん。後輩たちには僕たちのことをなんて説明してるの?」
「面倒事に巻き込まれる馬鹿コンビ」
俺が宮岸の頭を叩き、砂橋が宮岸の脛を蹴った。