B級ホラー幽霊事件【21】
カメラを持っていない美幸と新田がそれぞれ懐中電灯を持つことになり、肝試しと称して、三人は廃洋館への道を歩く。
森の中に人工的な光源はなく、曇っているのか、月明りも望めない真っ暗な夜だった。
『にしても、こんなに簡単に正秀部長が肝試しに付き合ってくれるなんて思わなかったなぁ』
『今の僕ならいける気がするんだ!』
『正秀部長、もしかして、まだ酔ってます? お酒で気が大きくなってます?』
談笑する雰囲気は肝試しのものではなかったが、三人は道を進むにつれて口数が少なくなっていった。あともう少し歩いたら廃洋館が目の前に現れるだろうと思ったところで新田が足を止める。
『幽霊屋敷に来ました~みたいなホラー番組っぽく撮ってみるか?』
『屋敷に入ってちょっとしたら女性参加者がしゃがみこんだりするやつ?』
『そうそう、それ。あとは物が落ちたり、肩が痛くなる振りをすれば完璧』
新田も美幸もホラー番組を見て内容をよく知っているのか、二人だけで盛り上がる。それに対して、長谷は二人の話題についていけずに、カメラで懐中電灯の光の先を追うことに集中していた。
美幸が自分の顔の下に懐中電灯を持ってきて、下から自分の顔を照らして画面の横から顔を出す。
『なんと今回は一家惨殺の噂がある廃洋館にやってきました! ご覧ください! こちらがそのいわくつきの廃洋館になります!』
美幸が廃洋館に手と視線を向けたと同時に横に控えていた新田が廃洋館の玄関を映す。
玄関の奥の闇に半分沈んだようにして、そこには金髪のゴシックドレスの少女が立っていた。
『え』
黒いゴシックドレス。土気色の肌。頬のヒビ。そして、その色の悪い両手には、昼間に金庫の中で見た穴の開いたビスクドールが抱えられていた。
『キャーーーッ!』
劈くような悲鳴と共にガサガサと茂みをかき分ける音が聞こえる。新田と長谷が焦ったように美幸の名を叫び、画面は揺れる。林の中で一直線に走る美幸の背中を追っている途中に画面は一回転する。茂みと地面を転がる音と男性二人の呻き声が聞こえ、すぐに画面の回転は止まった。
『ふ、二人とも大丈夫⁉』
『大丈夫じゃない!』
美幸の質問に長谷が言葉を返す。どうやら、斜面に落ちたようだ。長谷が地面からカメラを持ち上げると、地面に転がった懐中電灯を手にしたまま、しりもちをついている新田の姿があった。彼の膝からは血が出ており、腕にも同じような擦り傷があった。
『ご、ごめんっ! どうしよ……人を呼んでこよっか……でも、懐中電灯は二個しか用意してないし……スマホも置いてきちゃった……』
『もっと懐中電灯を用意しておけばよかったな……』
『ごめん、哲矢。僕、足痛めた……』
『マジかよ!』
とりあえず、二人は土手をあがろうという話をして、いったんカメラを止めることにした。
俺の隣で宮岸が目と口を開いたまま固まっていた。
宮岸の顔の前に手をかざして上下に動かす。反応はない。目と口を開いたまま死んでしまったのかもしれないと馬鹿げたことを考えていると砂橋が宮岸の前に置いてある枝状のチョコレートを盗んでいるところだった。
「おい、宮岸。砂橋にまた菓子を食われるぞ」
「あっ、えっ」
「ちょっと弾正、教えないでよ」
砂橋から不満が飛んできたが、俺はその抗議の声を無視して、画面に目を戻した。




