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B級ホラー幽霊事件【12】


 キッチンから廊下に戻り、廊下の左右の部屋を確認していく。


 今気づいたことだが、目に見える範囲の全ての部屋の扉が開け放たれている。もしかしたら、キッチンを荒らした人物は他の部屋も同じように荒らしていたのかもしれない。


 その想像は当たっていたようで、次にカメラが入った書斎の本棚からはほとんどの書物が床に落ちていた。床に落ちて開かれた状態になっていた本は破れ、湿り、しわくちゃになり、文字も崩れていた。


『ん? ねぇ、ちょっとこっち来てよ』

『なんですか?』


 石間が書斎の書き物机の裏へと回り込み、新田と透を手招きした。書き物机の下のスペースには引き出しかのように金庫が置いてあり、その重そうな扉は少しだけ開いていた。


『開けるか?』


 新田の言葉に否を唱えるものはいなかった。


 主のいない建物の中で見つかった金庫の中身が気にならない人間はいない。他人の金庫を開くことがいけないことだということは分かっているが、好奇心は抑えられないのだろう。


 しかし、石間に金庫の扉を開けるほどの勇気はなく、結局言い出しっぺの新田が金庫の前に屈んで、少し間隙間に手を差し込んだ。


『うわぁっ⁉』


 新田が叫び声と共に隙間に差し込んだ右手の手首を左手で掴み、力を込めて引っ張った。しかし、右手は抜けないようで、新田の表情は真に迫っている。


 俺の隣で宮岸が「ぎゃあ」と情けない声をあげた。


 しかし、その異様な光景にも関わらず、一切、透が持つカメラの映像がブレないのは金庫の扉を新田が自らの足で押さえていたからだろう。


 石間と透の反応がないためか、新田の叫び声はそこまで長くは続かなかった。


『なんだよ。驚かないのかよ』


『あんた、それ、他のメンバー相手にやったらビンタどころじゃすまないと思うから』


『まぁ、自分で金庫の扉抑えてましたし……』


 画面の中にしっかりと扉を押さえる彼の足が見えたため、俺も砂橋も驚くことはなかったが、宮岸は「驚かしやがって……」と毒づいている。


 あれで驚けと言う方が難しいだろう。


『それで? 金庫の中身は?』


『ああ、そうだった』


 重たい扉がすんなりと新田の手によって開かれる。


 その中にあったのは、書類や現金などではなく、一体のビスクドールだった。


 白い顔にはヒビが入っており、少しだけ顔に穴が開いている。身体を作っている磁器はところどころ割れているにも関わらず、その頭部の金色の髪は人形の腰まで緩やかなカーブを描いていて、ゴシック調の服は崩れていなかった。


『それっぽいな』

『陶器製の人形?』

『ビスクドールっていうやつですね』


 金庫の中身に興味を失った新田はビスクドールには触れずに金庫の扉を閉めた。


『この家の中で撮影するのか?』


『家の探索をしている途中に石間先輩が』


『透、名前』


『ああ……家の探索をしている途中に百先輩が扮した幽霊が出てきた、みたいな感じの撮影ならできそうですね』


『どう探索して、どんな感じに百先輩が出てくるかだよな』


 新田も一応映像研究サークルのメンバーのためか、彼も立ち上がって、顎に手を当てて考え始める。部屋を出て、玄関に近い部屋を除くとそこにはテーブルとソファーと小さな本棚、そして、大きなピアノが置かれていた。


『客間っぽいですね』


『二階はあがるか?』


『もし、階段が崩れたら怪我しそうだからやめておいた方がいいんじゃない?』


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