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B級ホラー幽霊事件【9】


「にしても、廃洋館に一家惨殺? ありきたりじゃない?」

 砂橋は肩を竦める。


 画面の中では、長谷と明里が小さい鍋が置かれたダイニングテーブルに、その他のメンバーが大きな鍋が置かれたダイニングテーブルについて、手を合わせて、カレーを自分の皿に盛り始めた。


「ありきたりだが、問題はそんないわくつきの洋館が今まで壊されることなく残っていたというところだろう」


「まぁ、確かに。ていうか、本当に犯人は捕まってないの?」


 廃洋館を壊すこともできず、どうして、山の持ち主は廃洋館の近くの別荘を知り合いにタダ同然で譲ったのか。


 不可解なことばかりだが、もしかして、この不可解は作られたものではないのだろうか。


 シナリオがないというのも、廃洋館も全て作り話だったら?


 俺は首を横に振った。


 映像だからと言って、人の期待をいい意味で裏切るような展開を想像したら、もし、その裏切りがなかった場合、想像以上に落胆することになる。


 この映像に関して深読みをするのはやめておこう。


「犯人も事件も俺は一切知らないぞ? 別荘がどこにあるのかも知らないからな」


「ふーん」


 どうやら、宮岸はこの映像を後輩から受け取った時に細かい説明をされなかったらしい。砂橋は宮岸の返答に興味をなくし、ぼーっと映像を見ながら、宮岸のポップコーンに手を伸ばしていた。


『私の家、いっつもカレーにはナスをいれてるのよね』


『明里、マジかよ。俺はむしろ、野菜とかカレーにいらないと思ってるんだけど』


 その後はだらだらとカレーにはどの野菜が必要不可欠かという議論が別のテーブルであるにも関わらず、白熱していた。


 ちなみに俺はニンジンの量を増やしたい人間だ。じゃがいもは形が残っている方が好み。それに対して砂橋はじゃがいもは跡形がなくなるまで煮込んでほしい派だ。前にカレーを作った時、じゃがいもが大きいと何度か文句を言われたことがある。


 そして、飲み物はラッシーを要求された。今思い出しても腹が立つ。飯を作った人間に対して要求が多いのだ。こいつはいつも。


 全員がカレーを食べることに集中し始めたところで画面が変わる。いきなり屋内の映像から、緑に埋め尽くされた周りの林の映像に切り替わる。


 廃洋館への塗装されていない獣道を映像研究サークルの七人で歩いている最後尾にカメラマンの長谷が立ち、先を歩く六人の背中を撮っていた。


 唯一、短いスカートを履いている明里以外は、動きやすいズボンを履いていた。山道を想定して長ズボンを履く人間と、暑さを考えて短いズボンを履く人間に分かれている。


『あ、あれじゃない?』


 先頭を歩いていた美幸が立ち止まって前方を指さす。


 少し長谷が小走りになったようで、すぐに映像に目的地らしき建物が映る。


 写真で見せられたものとほとんど変わらない赤い屋根と煉瓦の建物。全体的に色褪せ、壁には蔦が絡まり、窓は割れ、風化が進んでいる建物の玄関の扉は遠目から見ただけでも歪んで、二枚の扉のうち左側の扉が機能を失い、ぽっかりと家の中へと侵入者を招いているようだった。


『うわぁ、廃墟って初めて見たんだけど……』


『そうですか? 田舎って、結構ああいう誰も住まなくなって放置された家とかありますけど』


 石間の驚きの声を否定するように由紀子が言葉を被せてくる。よく見ると彼女と一年の透、そして、美幸は肩から鞄を提げている。他のメンバーは一切荷物を持っていない。


『家の中に入ろうぜ』


『いや、さすがにそれはさ……。倒壊とかの危険はないの?』


 興味津々に廃洋館への足を進める新田と、進む速度が著しく低下する明里。他のメンバーも口々に「危ないかも」「でも、気になるし」というどっちつかずの言葉が交わされ、結局、入るか否かの結論が出ないまま、一行は廃洋館の前についた。


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