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B級ホラー幽霊事件【8】


 その後、場面は切り替わり、リビングのソファーには長谷と新田、石間と明里の四人が座っている様子が撮られていた。カメラは固定されているようで、長谷が持っている時のようなブレがない。


『まず親父から聞いてきた話だと、ここから歩いて十五分の廃洋館は、昔外国人の物好きが住んでいたみたいで、ある日、惨殺事件があったらしい。それから、あの家を壊そうとした人間が事故にあったりした』


 よくある怖い話の導入を新田が語り始める。


 ソファーの前のテーブルには新田が持ってきたらしい廃洋館の写真が置かれた。赤い屋根に煉瓦が積まれた家は、ミニチュアの子供のおままごとにそのまま出てきそうなイメージがある。


『惨殺事件って……どんな?』

『一家惨殺とか……そんなんじゃないすかね』


 不思議そうな石間の疑問に新田は顎に手を当てた。あくまで新田にとって石間は先輩だから、敬語のようなものを使おうとしているのは分かるが、そのせいでさらに言葉遣いがおかしくなっているように感じる。


『外国人一家が何者かによって惨殺されて……犯人はいまだに捕まっていないみたいっすよ』


 新田の言葉に明里が「きゃー怖いー」と何も起こっていないのに隣に座っている新田の腕に軽くしがみついていた。


『でも、そんな廃洋館に入っても大丈夫なのか?』


『あ、大丈夫っすよ。親父が別荘の所有者に聞いたら、大丈夫だって言ってました』


『なら、一応、入っても大丈夫か』


 写真を撮ったのは最近だろう。色褪せた赤い屋根と蔦の絡まった煉瓦。割れている窓も風化している窓枠も、安全とは程遠いものだった。


 彼らは今からこの廃洋館に行くつもりなのだろうか。


『でも、まさか、ここまで洋風の家とは思わなかったなー。せっかく石間……いや、百に幽霊役をお願いしてたのに』


 長谷が困ったように自身の短い金髪を掻きむしる。どうやら、彼が自己紹介の時に言っていた名前を呼ぶという行為は、きちんと実践するらしい。


『白い浴衣を持ってこなかっただけましよ。よかったわ。白いワンピースの方を持ってきていて』


『じゃあ、ご飯を食べたら廃洋館の下見に行こう。どうせ、幽霊が出てくる映像なんて夕方くらいからしか撮れないし』


『はいは~い。作戦会議中のみんな~。美味しい美味しいカレーができたよ~』


『超美味しそうな匂いするー!』


 明里が新田から身体を離してさっさと立ち上がった。美幸の声を合図にソファーに座っていた四人が次々に立ち上がる。長谷がカメラを持つと、画面が動き、映像は二つも並んだ背の高いダイニングテーブルに向けられた。


 ダイニングテーブルにはそれぞれ、カレーの入った鍋が置かれており、その周りにはすべにご飯が盛られた皿とスプーン。何も注がれていないガラスのコップが用意されていた。


 ダイニングテーブルの周りにはそれぞれ椅子が六つずつあったのだが、余った椅子はすでにテーブルから離され、部屋の隅に置かれていた。


『こっちの小さい鍋の方が甘口で、こっちの大きい方が中辛ね』


『えー、激辛はー?』


『激辛は用意してませーん』


 新田の茶化しを美幸は笑顔で流した。廃洋館の話に参加していなかった一年の由紀子と透は冷蔵庫の中からオレンジジュースと牛乳、麦茶の二リットル入りのペットボトルを出したり、ガラスのボウルに入ったサラダをダイニングテーブルに運んでいた。


「こういう合宿ってたいていカレーを食べるよね」


「作るのが楽なんだろう」


「切って煮るだけだもんな。それでも俺はできないけど」


 宮岸も一人暮らしをしているのに、どうしてカレーを調理できないのかという疑問を聞くのはやめておいた。


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