B級ホラー幽霊事件【7】
『さて、自己紹介をしてもらってもいいかな? とりあえず、名前と怖いものは大丈夫かどうか、とか。この合宿への意気込みとか?』
カメラがついて、目の前にはカーキ色のソファーが見える。ダイニングにあったくの字型のソファーだろう。カメラはテーブルの上に置かれているのか、ソファーにはカメラマンだった長谷が映っていた。
『じゃあ、まずは僕から。僕はサークル長の正秀。ホラーへの耐性は、たぶんないかな……。僕らの先輩のあの人よりはあると思うけど……』
「おい! あの人って俺のことじゃないだろうな!」
現実のソファーの真ん中で騒ぎだす宮岸のことは無視して、俺と砂橋は画面に集中する宮岸のポップコーンを少し取った。
『今回の合宿ではみんなの仲を深めるためにある試みをしようと思う。名前で呼び合うんだ。もちろん、先輩は先輩呼びをするけどね。ということで、今回の合宿はみんな、仲良くなろう! これで僕の自己紹介は終わりかな』
画面が切り替わる。
次にソファーに座っていたのは、海から女性があがってくる映像の女性役を務めていたポニーテールの女性だった。
『私は石間百。大学三年生。正秀とは同期ね。ホラーへの耐性はある方よ。グロテスクな映画は嫌いだけどね』
石間は、嫌なものを見たというように舌を出して表現をした後、困ったようにカメラから視線を逸らした。
『この合宿に対する意気込み? あんまりないかな。それじゃあ、次の自己紹介ね』
また画面が切り替わる。今度も女性だ。石間百が針金が背に入ったスポーツ女性だとすると、彼女はハンガーが綺麗なままの状態で固まって、それが背骨になったかのような曲線を持つ女性だった。
背は石間ほど高くはないが、それでも女性の中では高い方ではないか。爪の先までネイルをしていて、こんな別荘でもメイクを目の端まで欠かしていない。
『はいは~い。映研のアイドル明里だよ~。読モやってま~す』
雑誌に載っていそうな女性だとは思ったが、本当に読者モデルをやっているとは思っていなかった。女性はひらひらとカメラに向かって手を振る。
『怖いものは怖いんだよねぇ~。ホラーとか全然見ないし~。まぁ、怖かったら全部哲矢が守ってくれるからいっか~。ほら、哲矢、自己紹介しなよ~』
明里に呼ばれて、画面に入ってきたのは新田だった。彼は明里に手招きされて、彼女の隣に座ると、流れるような動作で彼女の肩に自分の手を回していた。
『俺は新田哲也! この別荘の主だ!』
『えー、でも、この別荘、もらったの哲矢のお父さんなんでしょう?』
『ばっか。父さんの持ち物は俺のだろ?』
カメラの前だということを忘れて、密着している明里と新田が顔を近づけたところで映像が黒くなった。
見ているこちら側としてもこれ以上酷い有様を見せつけられなくて、映像をカットしたのは英断だと編集した人間を褒めちぎりたくなった。
いや、そもそも、今のところ、この映像に褒められるところなんて一つもないのだが。
『一年の由紀子です。ホラー耐性はあると思います。怖い映画とか、映画館に一人で観に行けますし。意気込みはないですけど、別荘の近くにあるって聞いた廃洋館はとても気になってます』
ソファーが次に映し出した時には、明里と新田のペアは消えており、代わりに荷物持ちをしていたぽっちゃりとしている女性が座っていた。太りすぎているというわけではなく、愛嬌がある顔をしている。
すぐに次が映る。一年のもう一人の男性で、荷物持ちをしていて、一人車に食材を取りに行った男性だ。
『一年の透です。ホラー耐性はある方です。ゾンビゲームとかもよくするので。意気込みは、とりあえず、皆さんの邪魔をしないように頑張ります』
透が自己紹介を終えるとカメラの近くから長谷の声が跳んだ。
『おーい。豊川……あ、美幸ー。お前も自己紹介しといてくれー』
『あー、ごめんごめん。とりあえず、冷蔵庫に詰めてたから。由紀子ちゃん、あと頼める? お願いね!』
弾んだ声の主はすぐにカメラの枠の中に入ってきた。透がソファーからどき、そこに声の主が座る。小動物のような小さな背の茶髪のショートカットの女性だった。スポーツをしていそうな石間の快活さとは違い、こちらの女性は木登りなどのアウトドアな動きの方が似合いそうだ。
『私は美幸! 大学に二年! ホラー耐性は全くなし! ゾンビも幽霊もドッキリもダメ! 意気込みはないけど、今回の合宿でも調理とか担当してまーす!』
彼女はそれだけ言うと、ソファーから立ち上がり、さっさと画面から退出してしまった。




