B級ホラー幽霊事件【5】
『わぁ、すごい! 外から見て分かってたけど、本当に広いんだね!』
そんな俺達の気分などお構いなしに映像はロッジの中へと入っていく。
玄関には靴箱と少し広い空間があり、右と左に扉、そして、その右の扉の横には二階に続く階段、正面には大きな木製の扉があった。
「結構、大きそうな別荘だよね。これを譲ってもらったって、すごいね。なにかいわくつきだったとか?」
「そんなこと言わないでくれよ。怖いだろ!」
砂橋の言葉に宮岸が自分の両肩を抱いた。まだ普通の別荘の玄関しか映像には映っていない上にまだ明るい。幽霊やホラーとは縁遠い絵なのだが、それでもホラーだと言われている宮岸にとっては映像そのものが怖いらしい。
俺には分からない感覚だ。
砂橋は宮岸が怖がっているのを分かっていてからかっているのだろう。
木製の扉のドアノブを回して開くとさらに広い空間が現れる。フローリングの上には四つ足の背の高いダイニングテーブルが二つもあり、左側には、くの字になっているソファーと向かい合っているテレビがある。
「本当に広いな」
「俺達の合宿なんて民宿に泊まって、海を映してたくらいなのに」
その映像なら見せてもらったことがある。海から長髪の白いワンピースの女性がゆっくりと砂浜に上がってくる数十秒の波の音だけが入っている映像だった。曇り空の下、一切の言葉を発さず、砂浜へと近づいてくる長髪の女性はとても不気味だった。
そのような映像をこの怖がっている宮岸がカメラマンとして撮っていたというのだから、驚きだ。
俺は宮岸が撮ったというその映像を見せてもらってしばらくした後に彼からホラー映画が苦手だから一緒に見てほしいと頼まれ、心底不思議に思った。
本人曰く、作るものは細部まで内容を知っているから怖がる要素がない、とのことだ。
『じゃあ、自己紹介してもらえる? 一人一人』
カメラの近くから男性の声がして、その場にいた全員を映す。六人の映像研究サークルのメンバーの中には見たような顔があったりなかったりする。
新田と呼ばれたプリン頭の青年を除くと、あとは男性が二人と女性が四人。荷物を持っているのはもっぱら背の低い男性とぽっちゃりとした体形の女性だった。もしかしたら、この二人は大学一年生の後輩だから荷物を持たされているのかもしれない。
『荷物置いてからにしない?』
背中に入れた針金をぴんと伸ばしたような女性が喋る。まっすぐな綺麗な黒髪を後頭部の高いところで一つにまとめている。
「弾正、彼女が海から出てきた女役をやってたんだ」
隣から宮岸が耳打ちしてきて、俺は思わず目を丸くした。
俺が見た映像の海から出てきた女性はおどろおどろしい雰囲気を醸し出していたが、今、映像に映っている女性は凛として、陸上などのスポーツをやっているような快活なイメージを受けた。演技と演出でここまで人が変わるものかと思ってしまう。
自分も、演劇サークルに入ったため、演技をしている時と通常の人柄が違いすぎる人間というのも見たことがあるが、映像と演劇では演技の仕方が違う。
「にしても、長い髪だね。洗うの大変そう」
砂橋が的外れなことを言って、ポップコーンを頬張る。どうやら、お気に召したらしい。ずっとポップコーンの容器を膝の上に置いている。




