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教授のラブレター騒動【15】


 俺達は図書館の前から移動すると十人から十五人ほどの生徒の数でよく授業が行われている教室に移動した。


「講義をしていない教室を運よく見つけられてよかったね」


 砂橋がにこりと微笑んできた。そうだなと軽く返して俺は扉を閉めて、腕組みをして不機嫌そうに立っている磯貝に話しかけた。


「話を聞かせてくれるか?」

「友達に頼まれたのよ」

「友達に?」


 ということはあのラブレターを書いた人間は磯貝ではなく、別の人間ということか。


 そもそも砂橋はどうして磯貝がラブレターを仕掛けたのだと気づいたのだろうか。


「そう。もういいでしょう?」


「その友人を呼んでくれないか? 話を聞きたい」


「どうしてよ。あの子は関係ないでしょう?」


「ラブレターを書いた人間なんだろう? 関係ある」


 俺と磯貝の言い合いは長くは続かなかった。やがて、観念した磯貝がスマホを取り出した。しばらく、気まずい空気の中、誰もしゃべらずに待っていると、教室の扉が開いた。


「美夜子! 手紙のことがバレたってどういう……誰?」


 入ってきた女性は長い髪を頭の後ろで結っている女性だった。動きやすそうなズボンと装飾のないシャツとスニーカーを履いている。女性は俺達の顔を見て、首を傾げた。


 松本教授にバレたと思ったのに、呼び出した先に知らない人間が二人もいれば困惑するのも当たり前だろう。俺は砂橋がいつの間にか俺の鞄から抜き取っていた手紙を机の上に置いた。


「これに見覚えはあるか?」


 女性は机の上に置かれたラブレターに飛びつくとそれを胸の前で守るようにして両手で持った。


「どっ、どっ、どうして持ってるの⁉」


 彼女は俺達を見た後に美夜子をきっと睨みつけた。


「どうして、バレちゃったの⁉ もしかして、浜元くんにも知られちゃったの⁉」


「いや、浜元にバレたというか……」


 怒る女性と申し訳なさそうにする二人に俺の隣の砂橋は肩を竦めてから、口を挟む。


「ねぇ、彼女は?」


 ラブレターを大切そうに抱えている女性を指さすと磯貝が困ったような顔をしてこちらを向く。


「私の友達よ」


「……石原佳代。あなたたちは?」


「松永だ」


「砂橋だよ」


 石原は俺達を睨みつけるのはやめなかったが、砂橋はそんな彼女の視線に怖気づくこともなく、石原に質問した。


「君はそのラブレターを本当に浜元教授に渡すつもりだったの?」


 何を聞いてるんだ。


 ラブレターにも「浜元様へ」と書かれていたのだから、浜元教授にラブレターを渡すつもりだったに決まっている。


「浜元、教授? はぁ?」


 俺の考えを打ち砕くかのように石原が怒りを消し、代わりに訝し気に砂橋の方を見てきた。


「磯貝さんは浜元教授が教室に忘れたファイリングの中にラブレターを隠したんだ。そして、それが浜元教授の手に渡り、告白するつもりなら早めにお断りをしたいからという浜元教授の考えのもと、このお節介な松永くんが調査をすることになったんだよ」


 簡単で分かりやすい説明はありがたいのだが、お節介は余計だ。


 石原はぎこちない動きで、磯貝の方へと首を向けた。油を差した方がいい機械が動くような音が聞こえてきそうな動作だった。


「浜元教授……? 教授にそんな人がいるの?」


 浜元教授のことを創造学科で知らない人はいないだろう。彼女は別の学科なのか。


「え、うん……。佳代、浜元教授のことが好きなんじゃないの?」


「私が! 好きなのは! 漫画研究サークルの浜元くん!」


 大袈裟に「えぇっ⁉」と素で驚く磯貝を見て、俺は頭を抑えた。どうやら、浜元違いだったみたいだ。


「どうして、分からないの⁉ 普通教授に恋をするわけないじゃん!」


「いやいやいや、漫画研究サークルにいた浜元ってあれだよ⁉ 入会して一週間でやめたあいつだよ⁉ 私が覚えてるわけないじゃん!」


 石原は頭を抱えて、その場で膝をついた。


 この場には俺達は必要ないのではないか?


「とりあえず、あとは二人で話し合ってくれる? このことは口外しないし、帰っていい?」


 砂橋の言葉に俺は慌てて口を開く。


「浜元教授には間違いだったときちんと伝えておく。あの人はきっと口外しないだろう」


 二人の返事も聞かずにさっさと立ち上がってしまった砂橋の後を追って、俺は教室から抜け出した。

 これであの二人の友情が壊れないことを祈ろう。


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