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教授のラブレター騒動【7】


「……浜元様へ、ね」

「遅れたのはこの封筒が挟まっていた浜元教授の持ち物を届けていたからなんだ」

「そういうことね」


 砂橋は便箋に書かれた告白を読み終わると折り目に沿って二つに折り畳んで、封筒の中にしっかりといれ、ハートのシールが貼られている側を表向きにしてテーブルの上に置いた。


 俺はそれを裏返す。


「で? どうして、松永くんが浜元様宛てのラブレターを持ってるの?」


「浜元教授に頼まれたんだ。この手紙の差出人を探してほしいと。もし、告白をするつもりなら早めに断りたいと言っていた」


「ふーん。奥さんがいるから?」


「それもそうだし、不毛な恋は早く終わらせて次の恋をさせるべきだと言っていた」


「わお、まともな大人もいたもんだ」


 砂橋は自身のレポートに向き直り、欄を埋めていく。砂橋がなんの授業のどのようなレポートをしているのかは知らないが、浜元教授にラブレターが送られ、その差出人を探すようにと言われた俺の話を聞いて、なおレポートを優先させるような行動に俺は思わず目を丸くして、砂橋のことを見つめてしまっていたらしい。


「なに?」


 俺の視線に砂橋は煩わしそうに眉間に皺を寄せた。


「気にならないのか?」


「なにが?」


「色々と」


「松永くん、知らないの? 好奇心は猫を殺すんだよ。いくら教授に頼まれたからって他人の色恋に首を突っ込んで口を出そうだなんて」


 砂橋は持っていたシャーペンの先を俺に向ける。


「他人の色恋なんて犬も食わないよ」

「それはそうだが」


 ため息をついて、レポートの続きに手をつける砂橋に俺は何も言えなくなった。そうか。普通は放っておくものなのか。


 そもそも、差出人などどう探せばいいのだ。


 俺はメモ帳を取り出して、ラブレターが挟まっているファイリングを俺が見つけただいたいの時刻を書き込む。


 確か、あのファイリングに入っていた授業の名前は『文学背景A』の授業だったはず。開いた時に授業の名前が書いてあったのが見えた。すぐに閉じてしまったから日付けまでは分からない。


 浜元教授の『文学背景A』の授業のものが教壇の中にいつからあったのか。


「松永くん」


 砂橋の声にメモ帳から顔をあげる。レポートはもう終わったのか、クリアファイルの中にレポート用紙を入れて、砂橋はこちらを見た。


「発表の話、するつもりないの?」


 砂橋はメモ帳の横に置かれた短編集を指さす。思わず黙ってしまう。


 砂橋と話し合って、今日は発表の話を詰めようということで集まったのだ。それなのに、俺は発表とは関係のないことをしている。砂橋が怒るのも当然のことかもしれない。


「……すまない」


 弁解の余地もない。俺が謝ると砂橋は深いため息をついた。


「松永くん、浜元教授からの頼まれ事を完遂しないと発表に身が入らないみたいだね」


 真面目な砂橋からすると俺の行動は腹立たしいことこの上ないだろう。俺は短編集にまた手を伸ばそうとした。


「分かったよ。手伝ってあげる」

「え?」


 砂橋は自分の右隣りの椅子に置いてある黒いリュックサックから茶色の正方形の財布を取り出した。糸などがほつれている。


「ご飯食べながらラブレターの話しよっか」


 荷物見といてと言うと砂橋はさっさと一階の食堂へと向かっていってしまった。


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