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教授のラブレター騒動【6】


「遅いよ、松永くん」


 砂橋は言葉とは裏腹に笑顔でコンビニスイーツのチョコレートプリンを透明なプラスチックのスプーンで掬って食べていた。


「どうして遅れたの?」

「浜元教授が講義で忘れ物をしたから届けに行っていたんだ」


「へぇ、そうなの」


 砂橋は興味がなさそうにチョコレートプリンを口に運びながら、左手で座った俺の前に三冊ほど積まれた本の山を差し出してくる。


「気になった本、集めてみた。作者の短編集とかも読んで他の短編も合わせての傾向とか考えてみたり、これが書かれた当時の時代背景とかも調べた方がいいと思ったんだけど」


 砂橋が俺に差し出してきた山のてっぺんの本を手に取る。これは今回俺達が考察して発表する小説を書いている作者の短編集だ。この作者の小説は一度も触れたことがない。一、二時間もあれば、読み終わることができる分量だろう。


 俺が短編集を読み終わるまで砂橋は他の講義のまとめをノートに書いていた。どうやら、俺が読み終わるまで待ってくれるつもりらしい。


「昼飯はどうするんだ?」

「お昼ならここで食べるつもりだよ」

「俺の友人が交友関係を広げたいと言っていたから一緒に食事をしないか?」


 砂橋はシャーペンを握る手を止めて、顎に手を当てた。もしかしたら、砂橋は初対面の人間に会うのは苦手なタイプかもしれない。


「今から会うの? 昼ご飯はもちろん食べるけど、それより発表の話をするのが先じゃない?」

「……それもそうだな」


 砂橋は存外真面目な性格なのかもしれない。


「そういえば、さっきから君の鞄からはみ出してるよ。ハートのシール。情熱的だね」


 砂橋は肩を竦めると自身のレポートに視線を落とした。丸テーブルの周りには四つの椅子があり、俺の右隣りの椅子に置いてる黒革の鞄から少しだけ封筒の端が覗いていた。


「……」

「いいんじゃない? 学業の合間に恋愛」

「いや、違う。これは俺宛じゃない」

「え? じゃあ、なに? 松永くんが誰かに渡すの?」

「違う……」


 浜元教授の名前を出さずにハートのシールのことを砂橋に説明することはできないと悟った俺は、封筒を取り出して、俺と砂橋の間に置いた。


「受け取らないよ」

「本当に違う。とりあえず、聞いてくれ」


 心の中で浜元教授に「すみません」と謝りつつ、俺は封筒を開いて、中身の便箋を砂橋に渡した。そして、封筒の宛先が書かれている面を砂橋に見せる。


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