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教授のラブレター騒動【3】


 砂橋と俺はとりあえず、連絡先を交換し、砂橋は今日はこの後講義がないからという理由で図書館に籠もることにしたらしい。

 ついでに発表の役に立ちそうな資料も見つけてくると言っていた。


「お、松永! いや、弾正先生とお呼びした方がいいかな?」


 食堂の丸テーブルで今日のAランチである味噌カツ定食を前に合掌していたところに軽薄な声が聞こえてくる。

 後ろを振り返る間もなく、丸テーブルの向かいの椅子に宮岸が座ってくる。


「その名前で呼ぶな」

「なんでだよ、公募小説出しまくってるんだろ? お前だったら、絶対に賞取ってすぐに小説家としてデビューするんだから、今から呼んだって構わないだろ」


 大学一年生の時のフランス語の講義で一緒になった宮岸は、俺と学部が違い、総合英語学科の生徒だ。しかし、小説を読むのが趣味ということで、俺の小説を読ませたところ「面白い!」と絶賛してもらえて、それから二年の後期の今も付き合いを続けている。


 被っている講義などはなくなったし、二年に入った途端にあか抜けたように髪色を明るい金髪に染めてきた宮岸は「俺の名前に合わせてみた!」と胸を張っていた。


 ちなみに彼の名前は「金助」だ。


「で? 進捗はどんな感じ?」

「歴史小説が七割。宮岸が書け書けとうるさかった恋愛小説が一割……いや、プロットもできていない」

「恋愛小説、苦手すぎだろ」


 俺は頭を抱える。


 確かに俺は恋愛小説を書くのが下手くそだ。歴史小説の中での恋愛、ミステリー小説の中での恋愛。何かに付け加えられた恋愛を書くことに抵抗はないのに、いざ「恋愛を書け」と言われると何を書いていいか分からなくなる。


「好きな子とかできたことないわけ?」

「あいにく、ないな」

「合コンとか一緒に行くか?」

「知ってるぞ。髪まで染めたくせに今も合コンとかに行けずにいるの」

「な、なんだよ! 俺だってお前が一緒に行ってくれるなら行ってるさ!」


 頭を金色に変えたところで変わらない。


 この宮岸金助という男は女性が苦手なのだ。宮岸には歳の離れた兄がいるのだが、その兄がさらに自分よりも一回りも年上の女性を結婚相手として連れてきて、その女性は宮岸に仲良くしたいなと媚びを売ってきたことにより、一気に女性という女性が苦手になってしまったらしい。


 そのような体たらくで共学のこの大学によく通おうと思ったものだ。


「で? 友達はできたのか? 俺達が恋愛をしたことない朴念仁だとしてもお前に新しい友達ができれば、そいつが恋愛をしたことがあるかもしれないだろ?」


 友達と言っても過言ではない人物はいただろうかと首を捻る。サークルの人間を宮岸に紹介しようものなら、強引な勧誘から始まるので遠慮しておきたい。


 ならば、これから関わる機会も多くなる砂橋はどうだろうか。


 砂橋の態度からして、当たり障りのない交友関係を築いていそうだ。今度、砂橋と昼食を共にする機会があったら、宮岸も誘ってみよう。


「今度、一緒に昼飯を食べないか聞いてみる」

「やった! どんな奴だ!」

「……特に、これといった印象はないが……背は小さい。砂橋という名前だ」

「じゃあ、砂橋にも俺のことちゃんと言っておいてくれよ!」

「ああ、分かった」


 砂橋に関して言えるのはこれぐらいだろう。明るい茶色の跳ねっ毛と深い青色のロングコートと、黒いリュックサック。それが砂橋を表している要素だろう。


「明日は授業はいつからだ?」

「一時限目から講義だ」


 しかも、プレゼミでお世話になっている浜元教授の授業だ。手を抜くわけにもいかない。眠るなどもってのほかだ。


 その後、俺は三時限目と四時限目の講義を受けた。演劇サークルも火曜日である今日は活動していないため、帰る前に図書館に寄って、砂橋の手伝いをしようかとも思ったが「今日はもう帰る」と砂橋から連絡が入ったので、俺はさっさと家に帰って、執筆作業に励むことにした。


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